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□しあわせって?
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特になにも起こらないまま放課後になり、私は来栖君のクラスに向かっていた。
私と来栖君は何気にクラスが違っていて、放課後はこうやってお互い迎えに行くようにしている。
用事があるという日は連絡が来るが、今日は来なかったから取りあえず行っているけど、最近忙しいみたいだし、どうなんだろう。
廊下には私以外誰もいなくて、もう皆帰ってしまったのだろうと少し安心した。
聞きたくない噂まで聞こえてしまうから、放課後ここを歩くのは元々嫌いだった。
まぁ、噂は噂でしかないんだけど。
教室の前までつき、ドアを開けようとしてピタリと手をとめた。
「翔君、今日はどうしましょうか?」
中から聞こえた、女の子の可愛らしい声。
それはどう考えたって、来栖君の名前を呼んでいて。でも翔なんて珍しくない名前だし、なんて自分の中で否定するけど90%くらいの確率で、ありえないとおもう。
「どこが良いと思う?」
やっぱりそれは、来栖君の声で。
聞き慣れてるはずの声なのに何故だか久々に感じて、もう駄目かも、なんてバカなことを考える。
知りたくない。聞きたくない。
こんな所にいたって、傷つくだけ。
来栖君に会ったって、気まずくなるだけだ。
でも、足が動かないのは何故だろう。
一瞬頭が真っ白になって、教室から聞こえる声もノイズのようにしかきこえなかった。…けど。
「七海の行きたいところ行こーぜ。
ずっと俺が行きたいとこばっかだったし」
来栖くんの声は、鮮明に頭に入ってきて。
思わず、泣きそうになった。
私は震える足に必死に力を入れて、元の道をフラフラになりながら歩いた。
「…どーしよ。」
教室に戻って、取りあえず自分の席にすとん、と座った。
七海さんと来栖君が一緒にあるいていただなんて、ただの噂だと考えていた。
というか、信じたくなかった。
写真だってみせられたけど、合成かもしれないしって。
でも、よくよく考えてみたら、噂になる前日は大体来栖君は「用事がある」と連絡してきた気がして。
今更ながらまずいかも、なんて感じてくる
信じなきゃいけないって、そんなことを思ってる自分が嫌になった。
“信じなきゃ”
そう思っている時点で、信用なんて出来ていない。
『なぁ苗字、ちょっといい?』
去年の、文化祭。
クラスが一緒だった私たちはそれなりに仲はよくて。
だからといって、私は来栖君対して特別な感情があったわけではないのだけれど。
後夜祭で、女の子たちから逃げてきた来栖君は友千香と喋ってる私の肩を息を切らしながら掴んできた。
何故かニヤニヤしてる友千香が「いきなさいよ」って、私の背中を押して。
来栖君が友千香にわりい、って私の手、掴んで、歩き出して。
今思うと、この後にくるシチュエーションは一つしかないけど、あのときの私にはそんな考えは頭になかった
『く、来栖君、どこまで…』
行くの?そう言おうすれば、来栖君の歩く速度は弱まって、それから10歩位歩いたところで私達は立ち止まった
ついた場所は、中庭の桜の木の前。
『あ、あの、さ!』
どもりながら振り返った来栖君の顔は、耳まで真っ赤だった。
そのことが、一番印象強かったかもしれないってくらい。
『…なに?』
それでも、これからの展開がわかってなかった馬鹿な私はただただ首を傾げるだけで。
『す……………なんだけど…』
『え?ちょ、ごめん、聞こえなかった。』
考えてみれば、この時の私はちょっと、いや、かなり嫌な奴だったと思う。
実際聞こえなかったけど。
『っだから!!!……お前が、好きだ。』
『……………え。』
馬鹿な私には、想像もしなかった言葉。
来栖君のことは、友達としか思ってなかった。
来栖君も、そうだと、ずっと。
…でも、すごくどきどきしているのは何故だろう。
『俺は、お前が俺のことを何とも思ってないのはわかってるし、いま困らせてるのもわかってるけど…伝えたくて…えっと、返事は今じゃなくて良いから!』
ていうか、今の結果は分かりきってるから今じゃない方がありがたい、なんて照れくさそうに、でも少し悲しそうに笑う来栖君を無視して、私は
『いい、よ。』
そう、答えた。
恋愛感情は多分ない。彼氏がほしいとか、そんな風に思ったりもしてないけど、口が勝手に、動いた。
『……えええええ!?』
大袈裟なくらい、驚いている来栖君に、私は思わず笑ってしまった。
え、夢?だなんて頬をつねったりもしている。
『ま、まじで!?』
『嘘つけるような、雰囲気じゃなかったよ。』
私の言葉にうわ、うわ、と来栖君は挙動不審になっていて。
『おれ、お前のこと世界で一番幸せにするから!』
この瞬間、多分私は、来栖君に恋をした。