short
□「love you」
1ページ/1ページ
背は俺より小さくて、可愛いか美人かで言ったら可愛い系で、歳は年下かタメで、俺の事を純粋に好きでいてくれて、なにかに熱中してるような、
そんな人が良かった。
「………。」
横に座って紅茶を静かに飲む女にちらりと視線を向ける。
何故、俺はまたこの人のところにいるのだろうか。
そんな事を考えていれば、彼女も俺に目を向けて。
「っ」
思わずバッと視線をそらした。
隣からはくすくすと笑い声が聞こえる。
「どうしたの?翔くん。」
「…な、んでもねぇッス」
隣に座る、俺よりも7歳も年上…24歳のこの女は、俺の理想とは正反対な人だった。
強いて言えば、“なにかに熱中してる”という部分はないこともない、だろう。
「今日はオフなのね、多忙なアイドル君?」
からかうような彼女の口調にむっとしながらも頷いて「 名前さんもだろ 」と呟くように言った。
人気女優の 苗字 名前。
俺の、好きな人。好きな人だけど、この人は、さいていな女だと、俺は思う。
「……今日、アイツは?」
「あの人がいるとして、私が君を部屋に入れると思う?」
…ほら、最低だ。
こうやって、旦那がいるのに俺を部屋にあげるこの人も、旦那がいるのを知ってて会いにくる俺も、最低だ。
こんな事がバレたら、どうなるんだろうか。
恋愛禁止の事務所に所属している俺が、こんなこと。
普通に考えて、グループ脱退、とか?
彼女は、どうなる?
……旦那とは離婚して、干されて、業界から忘れられて…
「あのさ、翔くん。」
「……なんスか?」
長い髪を、耳にかけながら彼女は笑った。
彼女の癖。でも俺はこの仕草が嫌いだ。
…薬指に光る指輪が、どうしたって目に入ってしまうから。
「もし私達の関係がバレて、芸能界にいられなくなったら、そしたら、」
「私のこと、もらってね。」
にこりと、綺麗な形の真っ赤な唇が弧を描いた。
それも、いいかも。なんて思ってしまった俺はもう末期かもしれない
そんな自分が馬鹿らしくて、苦笑した。
love you
(悲しい瞳で笑う彼女が愛おしくて、真っ赤な唇にキスをした。)