Pathetic Melody
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勉強も、歌も、アイドルになることだって、全てのことを本気でやっているつもりだった。
…いや、本気でやっていたのだ。
……でも。
「へぇー、名前って頭良かったんだな。」
1位、という文字の下に並ぶのは、いつも私と彼女だった。
苗字 名前。
綺麗だの歌が上手いだので彼女は受験の時から、かなり目立つ存在だったと思う。
入学当初は今以上に自らに自信があって他に興味の無かった私でさえ、彼女のことは知っていた
…とは、いえ。
ここは早乙女学園。受験の倍率も、難易度も、半端なものではない
そんな人がいても不思議ではないと、そう思っていたのだ。実際顔立ちが整っている人も歌の上手い人も何人もいる。
そんなこともあって私自身彼女の歌を聞いたことがあったわけでも顔をしっかりと見たことがあったわけでもなかったが初めは、全く気にも止めなかったのだ。
そんな私が、彼女を必要以上に気にする理由。
きっかけは別に、テストの点数や順位ではなかった。
「ねぇトキヤ、さっき名前が…」
「今日名前と出かけてくるから!」
「いーなートキヤは名前と同じクラスで」
なにを話していても、二言目には名前、名前、名前。
いつでも彼女のことばかり…いや、彼女のことしか話をしない、同室の一十木音也、彼のせいなのだと思う。
全く興味のない、ただのクラスメイトだったとしても同じ名前を毎日うんざりするほど聞かされれば誰であっても多かれ少なかれ興味を示すだろう。
しかもその“彼女”が“苗字名前”なのだから尚更仕方のないことなのだ。
それに加えて毎回順位が同じようなもので席も隣となれば、もう彼女に興味をもつのには十分すぎた
更に、だ。
「音也がね、」
隣の席の彼女までもが音也の話を翔に延々と話していたのだ。
正直呆れていた。
こいつらは本物の馬鹿なのだろうと、それから、そんな馬鹿に勝ることのできていない自分にも。
そろそろせめて音也だけでも、彼女の話をするのをやめてくれないだろうか。
まあそんな事を言ったところで結局何も変わりはしないのだろうけれど。
そんな事を考えていた、矢先。
「七海がさ」
唐突すぎてもう笑えてしまうくらい不自然に、彼女の話題を必ず1日2回は繰り広げていた音也が、何故かAクラスの七海春歌のことをまるで苗字さんのことを話していたときのように話し始めたのだ
私はたった一度だけ、彼女にテストの順位で勝ったことがある。
でも、その時の彼女の順位は2位、ではなく127位。
後ろから数えた方が早いくらい、ボロボロだった。
驚いた、当たり前のように。
でも、妙に納得出来てしまった自分もいた。
有り得ないほど彼女の点数が落ちたのは丁度音也が七海春歌の話をするようになった頃からだったのだ。
きっと、彼女のことをあまりよく思わなくなったのはこの頃からだと思う。
テストの結果からして音也のためにこの学校に入学したのであろう彼女のことが“本気”でアイドルになりたいと思っている私からしたら気にくわなくて当然だった
でもそんな気持ちとは裏腹に、泣きそうな表情で笑う彼女を私はペアになろうがならなかろうが放っておくことはきっと、出来なかったのだと思う。
…まぁ、それでもやっぱり関わりたくは無いのだけれども。