Pathetic Melody
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私にとっての音也が言葉には表せないほど大切な存在だったとしても、音也にとっての私は“幼なじみ”でしかないんだと、そう、思った
「名前…あの、その、大丈夫…か?」
なにも言わない私に来栖くんは…多分、かなり気を使っているのだろう。
大丈夫か、なんて、正直大丈夫なわけがない。
…でも、
「うん、全然へーきだよ。」
わざと、そう言って笑ってみせた。
大丈夫なわけない。
そんなことを口に出してしまえば、「俺がもっとはやく気づいてれば」なんて言ってくれた来栖くんはきっと、もっと責任を感じるだろう
…どう考えたって少しも、彼は悪くはないけど
それでも来栖くんはやっぱり、納得が出来ないというような表情をする。
「…全然へーきそうには見えねーっつの。」
ホント俺の前でくらい無理しなくて良いから。
そう言うと、来栖くんは笑った。
あんま考え込むなよ、そう、付け足して。
そんな彼に私もつられて笑顔になる。
…来栖くんは、優しい
「…ありがと、来栖くん。」
「…あー、迷惑とか思わねーよ、俺は、全然」
「本当に?」
「おう、お前は良くないことだって思ってるかもしんねえけど頼られたら嬉しいもんだから、男って。」
そうは言っても、きっと私は頼りすぎだよなぁ、そんなことを思いながらもありがとう、ともう一度いった
授業が始まると、私は頭の中を音也のことから音楽のことに切り替えようと必死だった。
でも、音也の大好きな音楽を勉強するとなるとやっぱり彼のことを考えないようにするのは難しくて。
そのうえ日向先生はテストの結果が出たばかりなのにまたテストの話をしている。
今回のテストは前回のテストより、少々難しいらしい。
「…というわけで、隣の席のヤツとペアな。」
またペアで受けるのだったら嫌だな。
そんな事を考えていた時だったのだけれど
「うそ、」そう、思わず声に出してしまいそうになった。
だけど名簿かなにかにチェックをつけている日向先生の様子をみるとやっぱり嘘ではないようで
代わりに前の席の来栖くんが私のほうを一瞬見てえっと声をあげた
冷や汗が、背中を伝うのがわかる。
来栖くんが声をあげたのは、きっと私が彼のことを苦手だと知っているからだ。
…いや、それ以上に、そんな事関係なく、私は隣の彼から、…嫌われている。
一ノ瀬、トキヤさん。
入学早々に、一際目立っていた彼は人気アイドルのHAYATOに似てる、だとか本人だとかで一気に有名人になった人だ。
でもすでにアイドルの人がここに来るわけがないしこの人が双子だと否定したことで、今は前ほど騒がれてはいないのだけど
一ノ瀬さんは明るい“HAYATO”とは違って誰かとムダな会話をしたりなんてしない。
笑顔なんてもってのほか。
冷たい人だと、話したことなんてないけど、本気でそう思う。
そんな彼と、私は席が隣なのだ。