Pathetic Melody

□06
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『音也と苗字さんの関係、知ってますか』

今日。の、放課後。

激しく降り続く雨に傘をどうしようか、なんて考えながら廊下を歩いていて擦れ違ったのはトキヤだった。

まぁ、そりゃ。
同じ学校に通ってて、ましてや同じクラスともなれば擦れ違うなんてそんなこと、気にするほどのことでもないのだが、でも、アイツは、そう俺に声をかけたのだ。

『は?なんでそんなこと…、』



俺とトキヤは仲が良い、と言えるような関係ではなかった。

トキヤからすれば他のヤツよりは俺は喋ったりする方なんだろうけど、でもアイツにそういう関係を求めること自体が間違ってるようなもので。

そんな周囲に関心を持たないトキヤが名前のことを聞いてきたのだ、他の誰でもない、名前のことを。

だからか、少し喧嘩腰になってしまった。

…だってそんなの、焦るに決まってる。

トキヤはそんな態度に苛立ったのか、眉間にシワを寄せため息をついた。

『…音也の話になった途端、泣きそうになっていたので。…それから、』



音也に会ったときも。


その言葉に俺はトキヤの質問にも答えず女子寮に、走った。

ビチョビチョになりながら、でも、そんなの全く気になんてならなくて。…音也に会ってしまったときの名前の気持ちを考えたら、…どうでもよかった。



でっかい、溜め息をつく。

友達としか、思われてない。
わかってた、いや、分かってるけど、アイツのことを知れば知るほど…引き返せなくなっていったのだ。




…そういえば、那月と約束があったんだった。

早めに帰らなきゃ、心配とかじゃ無いとは思うけど、アイツもアイツでうるせーからな。

少し早足で寮までの道を進む。

…明日、晴れるかな。

雨はイヤだ。濡れるし、ジメジメしてるし、傘もつのも、面倒だし。

もう一度、今度は小さくため息をつくと肩をキツく掴まれた。


「っ、」

「やぁおチビちゃん。」

こんな雨の中なのに感じる少しキツめの香水の匂い。
それでも不快感を与えない辺り、コイツはすごいと思う

…めんどくせえヤツにあった。

「…れ、レンかよ。」

突然肩をつかまれて内心、心臓バクバクだったけどそれを悟られないように限界まで冷静なように応じる。


するとレンは「子羊ちゃん達と買い物してたんだ」なんて聞いてもいない事を話してきた

すっごくどうでもいい。


「おチビちゃんはなにしてたの?」

「チビって言うな!」

「はいはいわかったわかった。」

コイツぜっってぇわかってねぇ。

バカにするように笑うレンに肩を肘置きにされて必死で振り払うとまた、同じように笑われた

「…じゃなくて、さ。女子寮から出てきたの見ちゃったんだけど。」

なにしてたの、もう一度そう問うレンは好奇の目、というより何かを探っているようで。

…話してしまえばなんて事ない物なのに、少し話すのを躊躇する。

「ふつーに、…名前のとこに用事があったから行ってみた、だけだよ、」

レンは、勘が鋭い。

本当は名前までは言いたくなかったがどうせバレているだろうしそうじゃなくても後々バレる事になりそうだからと割り切ってしまった。

嘘ついたって、一緒。


「ふぅん、…じゃ、それってイッチーの様子が可笑しかったのと関係ある?」

「は?トキヤ?」

「あぁ、明らかーに、いつもとは違ったけど。」

イッチーのペアがあの子って聞いたから、もしかしてと思ってね。

…俺に話しかけてきたときは、その“行為”以外は普通だったはず。

いや、でもその時点でもういつもと違うんだ。


…俺も気が動転してアイツ無視して名前のとこ行っちゃったし、あんまり気にしていなかったけど。

「…偶然だろ、トキヤが変なのと俺が名前に会いに行ったのは関係ねーよ」

「絶対に?なんの関係も?」


なんだ、なんでこんな、…あたかも知っているかのように。

ていうか寧ろ……知ってるのか?


「ねぇよ、」

「へぇ、じゃあおチビちゃんがあの子に会いたかっただけか。」


俺はこいつにからかわれているのだろうか。
そう考えると少しムカついて反論しようともしたがレンはああ言えばこう言うタイプだから辞めておく。

「ま、頑張って」

一応おチビちゃんのことは心配してるんだ、なんて、思ってもいないであろう事を言ったレンは俺の頭を二回ほど叩くと寮とはまた別の方向に足を進めていった


「どこ行くんだよ!」

「寮に帰ってもうるさいヤツがいるからね、雨の中の方が100倍マシだ」

「はぁ?意味わっかんね…、」

そんな俺の言葉には振り返らず、レンは寮とは全く逆の方向に行ってしまった。

…なんでアイツら、仲わりいんだろ。


そんな疑問を感じながらも追いかけようと思うほどでもなくて。俺は大人しく寮に急いだ。






 
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