Pathetic Melody

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早乙女学園、

ここは、本気でアイドルや作曲家を目指している人達が目指す場所で。

早乙女学園に通えれば、その夢へは大きく近づく事ができた。



そんな場所に、こんな私が通うのはどう考えてもおかしいけど、アイドルにも作曲家にもなりたくはない私のせいで“本気で目指してる誰か”の気持ちが無駄になるのもわかってたけど、結局私は、自分が一番大事だったようで



音也を追いかけてきた早乙女学園。
…その音也が、私に興味を無くしてしまったのなら意味はない、のに。


「く、来栖君、どうしたの?」

そんな、固まっちゃって。

のぞき込むように彼のことを見つめると、来栖君はハッとして私の腕を掴んだ。 


「え、なにして…」

「え!?あ、えと、きょ、教室入ろーぜ!こんなとこで立ち話してたら他のヤツの邪魔になるし!」

「…うん?」

それは、そうだ。
確かにそれはそう。…でも、挙動不審すぎない?

私の腕を引きながら大きな声で今日は天気わりーなーとかお前に負けて悔しいなーとか、それも、棒読みで


…おかしい、おかしすぎるよ、来栖君。

きょどきょどとするおかしな様子の来栖くんを不思議に思う。
が、なにも言おうとしない彼に私もなにも言わないでおこうと特には突っ込まずにいた
それがきっと、私の中での正解だったのだ



………なのに。






「なーなみー!」


大きな声を上げながら歩く来栖くん、だけど、目の前にいる来栖くんの声よりもしっかりと鮮明に聞こえたのはやっぱり私が彼を求めてしまっているからなのかもしれない

どうして人間はこんな時に冷静になれないのだろうか、ふりかえれば傷つくことになるって、自分が一番分かってた筈なのに。


ぐいっと、腕を引っ張られる。だけど動けなかった。動かなかったのだ、足が、思うように。

「っ、名前!」

今更「私は早乙女学園に来てしまったのだろう」なんて考えた理由。

全然不思議じゃない、ホントはわかってたんだ。

この学園に入学したばかりの頃、音也はいつでも私の隣にいて、私も音也のとなりにいた。
友達がいないのは、そのせい。だけど音也がいるから気になんてならなかった。




…音也のとなりが、私じゃなくなったのはいつから?
ひとりが、気になり始めたのは、
私の名前を呼ばなくなったのは、

「一十木君!合格ですね!」

あの子の、せい?


私はどうしてこんなに馬鹿なんだろう。



「っクソ…名前!」


私の名前を呼ぶ来栖くんに気付かなかった訳じゃない。無視してる、わけでもない。
だけど返事は出来なかった。動くことも、出来なかった。

…なんだ、もう、迷惑かけまくりじゃんか、わたし。



テストの結果を見て、合格を喜ぶ2人。
音也の目に映るのは、一緒に喜んでいるのは私じゃ、ないの




音也の笑顔の先の女の子。
…七海春歌ちゃん、彼女と音也の仲が良いのも、テストでパートナーを組んでいるのも知っている。
噂で聞いた、というよりまだ音也と話していた頃から彼は七海さんの話を嬉しそうにしていたのだ。

日に日に彼女の話題が増えていくのに、私といる時間より七海さんといる時間が増えていくことに、私はずっとずっと気づかない振りをしていたのだ。




…彼女を見る度良い子そうだと思う。
優しい性格なのだろうと、遠くから少しみただけで、わかる。


ふわふわとした女の子。

…私なんかより、ずっと、音也の好きそうな、感じの。

そんなイメージが強かった。




…なんで、なんで私は、こんなとこに。



七海さんがいなかったら、私は音也と今でも、

そんな嫌な考えがよぎり、必死で首をふる。


私、最低だ。
そんな酷いこと考えてもいいわけ無い。



「こんっの…馬鹿!」

「わっ、」

あまり強くは引かれていなかった手。
だけど来栖くんは力強く私の腕を引いて、教室に連れ込んだ


少し、腕がジンジンとする。だけどそれを言葉には出せなかった。
…彼の表情をみたら、とても、言えない

「んで…、お前ほんっと……
…………いや、俺がもっと早く気づけばよかった」

「ちがっ、…………来栖くんごめん…ごめんね、」

「……あんま、無理すんなよ。」

優しく声をかけてくれる、来栖くん。
…だけどそれが今は辛くてたまらない。

もうこの場所から消えてしまいたかった。

他の人に向けられた笑顔なんか、見たくなかった。


 
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