彼は私を愛していない
□手紙
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「手紙を書こうと思うの。」
思いついたのは、部屋に戻って一通り侍女の小言を聞き終えたあとだった。何か綺麗な紙とかって無い?と聞くと彼女はすぐに何種類かの便箋を持って来た。
「でも、ご実家に文を出すにはまだ早過ぎるのではありませんか?」
持ちながら聞く彼女に笑いながら私は言う。
「違うの。ギルサンダー様に書くのよ。」
へぇ、それは随分ご成長されましたね。会談の席ではまるで寒さに震えるネズミか何かの如く怯えてらしたのに。にこやかに言い放つ彼女は本当に私の侍女なのか。だが確実に的を射た表現だ。実際に会いに行くのはまだ怖い。でもだからといって挨拶もなし、会うことも言葉を交わすこともなしとは言ってられないのだ。これは政略による婚約、家と家の関係に直結する重大事項なのだ。下手に刺激をしたくないしされたくもない、かと言って無視も出来ない。
「だからせめて。婚約者なわけだし一応ね。」
適当な便箋を選びながら説明すると、成長されましたね。と言われた。だが、彼女はその次にですがと続けた。
「政略結婚で娶られた者としての義務の最終段階をご存知で仰ってます?だとしたらもっと手っ取り早く寝室にでも」
「生々しい話はやめて!!!」
言われると思ったよ、途中から予想はしてたよ!でも何でこの子は恥ずかしげもなく顔色も変えずにそんな事言えるの!?あとまだ娶られること確定したわけじゃない!!
「直接会うのはまだ怖いし、ギルサンダー様もお仕事忙しいらしいから、書くのよ。文面考えてるんだから変な事言わないで。」
兎にも角にも、顔を真っ赤にしつつなんとか便箋を選び出し挨拶の言葉を考えた。