彼は私を愛していない

□疑念
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さて、聞くところによるとギルサンダー様はまだお戻りになっていないらしい。いつものように手紙でお礼を申し上げようかとも思ったが、今回ばかりは私から会いに行った方がいいのではとも思うのだ。怖い事は確かに怖い。でももしあの時助けてもらえなかったら私はもちろん、あの3人も死んでいたかもしれないのだ。いわば命の恩人というわけだ、怖いなんて言ってられない。それに手紙を通してとは言えど、ちゃんとコミュニケーションは取れているはずだ。この機会に会いに行くベキなのだろうかと考えていたところだった。

コンコンとドアがノックされ、返事をすると勢いよく人が入ってきた。


「・・・お母さん・・・!!」

「バロット!あぁ、もうこんな・・・、なんてことなの!?」


母はベッドに駆け寄り、確かめるように私の頬に手を添えて言った。あとから使いに出していた侍女が部屋に入ってくる。


「こんなに傷だらけ・・・。嫁入り前の身体に、本当にもうどうなっているのよ。婚約に出してまだ一月も経っていないのよ?」


母はだいぶ怒っているようで、いつもより声が高く喋る速度も早い。母の後ろに控える侍女も少し顔色が違う。ただ、私には心配するならまだしも何故そんなにも憤っているのかが理解出来なかった。


「あぁ、バロット。やっぱり貴女をこんなところに出すんじゃなかったわ。本当にごめんなさいね。」


母の言葉の意味がわからなかった。だってギルサンダー様は私を助けてくれたのだし、この襲撃は遠方からの突然のもので防ぎようはなかった。それでも最善を尽くしていただいたのである。むしろ怒られるというのならそれは逃げ遅れた私だ。

それを告げると母は目を見開き、数秒後にさらに憤りを表した。後ろにいた侍女も俯き、眉を潜め、手をギュッと握る。ここの者は私の娘をなんだと思っているの、何も知らせずに隠し通そうだなんて、ともうほとんど金切り声で母は言う。

私は本当に意味が分からなくて、母に尋ねた。すると母は私の肩を掴んで真剣な顔立ちで言った。


「バロット、よく聞きなさい。今回の襲撃は外部からじゃなくて、もともとあのギルサンダーの所為なのよ。」

「彼は一般人が住んでいるバーニャの村へ、村をまるまる一個消し飛ばすだけの魔力を込めた槍を放ち、それがどういうわけか跳ね返って来たらしいわ。」


納得がいかなくてね、兵士に聞いたらしぶしぶ白状したわ。そう言った母は他にも続けた。バーニャでの横暴な振る舞いの数々、今回の事件の考え得る経緯。それは私にはとても信じられるものではなかった。


「本当にこんな酷い人と婚約なんてさせるんじゃなかった。すぐにでも解消させてもらえるよう交渉しましょう。」


こういう時の母は本気だ。父が死んでからずっとこの世界で娘2人を育ててきたのだ。いざという時の決定と行動が早い。が、それは時に欠点ともなり得る。現にこの婚約を承諾したのは他でもないこの母なのだ。

私が少しだけ待って欲しい、最終的な決断は自分でしたいと言うと母は不服そうながらも承知してくれた。

それからは少しだけ話をして、母はあまり遅くなるわけにはいかないということで家に帰っていった。




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