短編の図書館

□貴方は俺の光で桃源郷
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「エリック」
 黒髪の女性に呼ばれ、エリックと呼ばれた青年は「どうしたの?那智さん」と尋ねた。

「これから行きつけの紅茶の店に茶葉を買いに行くから、着いてくるか?」

「あ、はい」
 エリックはデスクチェアから立ち上がると、黒髪の女性―那智に返事をした。

「よし、じゃあ行くか。三人共土産買ってくるから、留守頼んだぞ」

「了解!」

「「気を付けて、行ってきてくださいね!何かあったら、飛んで行きますから!」」

「ありがとな。エリック、行くぞ」

「は、はい!」
 三人に見送られながら、那智とエリックは事務所を出たのだった。




 紅茶専門店――…
「エリック」

「は、はい!」
 那智に呼ばれ、エリックは肩を大きく揺らした。

「お前は、どれがいい?アールグレイかアッサム」

「じゃあ、アッサムで…」
 エリックは、那智が持っているアッサムと筆記体で書かれた赤色の袋を指差した。

「わかった。買って来るから、外で待ってろ」

「はい」
 那智がレジに行ってしまうと、エリックは外に出て待つ事にしたのだった。

―でも那智さん…なんで俺がアッサム好きなの、知ってたんだろう…。

「エリック」

「は…、はいっ!」
 那智に呼ばれ、エリックは大きく肩を揺らした。

「どうしたんだ?そろそろ、行くぞ」

「は、はいっ!」
 エリックは返事をすると、急いで那智を追いかけた。



「ねぇ…那智さん」

「どうした、エリック」
 エリックが尋ねると、那智は立ち止った。

「どうして…那智さんは俺がアッサム好きなの知ってたの?」
 胸の中に持っていた疑問をエリックは、那智に尋ねた。すると那智は、少し間を置いて答えたのだった。

「勘だ」

「え…?」
 ありきたりな答えにエリックは思わず、唖然としてしまった。

「ホント…に?」

「なんだ…エリックはあたしがストレインの力を使った、嘘を付いてるとでも言いたいのか?」
 那智に尋ねられ、エリックは否定はできなかった。

「それで…なんで、それを聞きたいんだ?」

「え…?」
 本題を出され、エリックは思わず黙った。

「気に…なるんだろ?」

「はい…」
 自分はこの人にはホントに敵わないと心中で呟きながら、エリックは那智に頷いた。

「あたしもな…好きなんだ。アッサム」

「え…?」
 エリックは驚いた顔で、那智を見た。確か死んだ母もアサッムが好きだったことを思い出したのだ。

「母さんも…好きだったんです。アサッム…」

「そうだったのか…」

「はい…」
 エリックは静かに、頷いた。そして深呼吸をすると、言葉をゆっくりと吐き出した。

「那智さん…」

「どうした、エリック」

「俺…那智さんに出会って、ホントに良かった」

「…」
 那智は静かに、エリックの言葉に耳を傾けることにしたのだった。

「那智さんに出会ってなかったら…今頃、道具として扱われるだけの人間になってたかもしれない…。けど那智さんに出会って、こんな俺でも前向きに明日を生きたい、自分も変われるんだってよくわかったんだ。那智さん、俺に…光を与えてくれて…ありがとう」

「こちらこそ…どういたしまして」

「…っ!那智さん、大好き!」
 エリックは勢いよく、那智に抱き着いた。

「おい、エリック…っ。びっくりするだろ」

「エヘヘ…」
 エリックは「ごめんね、那智さん」と謝って、那智から離れた。

「全く…。そろそろ帰らないと、マリアと綾香の電話攻撃あるからな…。帰るぞ」

「うん」
 歩き出す那智に、エリックは小さく頷いた。

─那智さん、ありがとう!
 エリックは心中で叫ぶと、前を歩く自分の王に向かって走り出した。

 まるで過去と決別するように…



End
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