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□この感情を二文字で
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オレの名前は小山 優太郎。私立である来宮高校に通うごく普通の高校一年生だ。
やっと一日の学校生活が終わり、只今下校中。来宮高校からオレの家までは、徒歩20分程度だ。近くて助かる。しかし、同じ方向(しかも徒歩)の奴はなかなかいないため、いつも帰りは一人だ。…くれぐれも言っておくが、友達がいないわけではない。
肩にかけている鞄をかけ直し、見慣れた土地に目をやった。空はもう橙色で、建物も橙めいているように見える。
綺麗だな。素直にそう思った。
「あっ優ちゃん発見!今日も小さいねー小さくて可愛いねー!」
―そんな街の風景を台無しにするような発言(というか叫び)をしたのは、今オレに向かって手を振りながら走ってきている彼女だ。
彼女の名前は藤谷 雪。艶々の黒髪ロングに、知的な眼鏡。スタイルもすらりとしており、歩けばかなりの確率で二度見される。
「雪ちゃん…そんな、いつも走って迎えに来なくていいから。」
「いや駄目よ!優ちゃんは可愛いし可愛いし可愛いしで一人で下校なんて危なすぎる!」
「…はあ。」
「溜め息つく優ちゃんも素敵。」
中身は本当に残念なんだよなあ…と思いつつ、横目で雪ちゃんの顔を見た。
「ひええジト目ぇ!可愛いいい!」
「うるさい。それにオレは可愛くない。」
「いやいやいやいや、小さくて可愛いです。きゅん。」
「小さいとか言うな!」
「あ、ごめん!さっきも言っちゃったけどね!」
ウインクをしながら謝る彼女からは反省の色が全くうかがえない。
…確かにオレは、周りの男子高校生よりも背が低い。15歳にして身長は156センチメートル。…いや、男子だけではなく女子よりも低い場合があるか…。
中学生の頃、周りの奴らはぐんぐん背が伸びていたにもかかわらず、オレは時が止まってしまったかのように全く成長しなかった。
そんなオレに対し、雪ちゃんの身長は165センチメートル(本人によると)。隣に並んだときにできる身長差が屈辱的だ。
雪ちゃんは一見高校生、いや大学生に見えるくらい大人びているが、実は―
「そうだ、聞いてー優ちゃん!今日図画工作の時間で誉められたんだあ。」
「へえ、良かったね。何したの?」
「絵の具で将来の自分の姿を描いたの!」
小学生なのである。
もう一度言うが、小学生なのである。
たまに雪ちゃんの登下校姿を見るのだが、ランドセルを背負っている後ろ姿には違和感しか感じない。道行く人も、必ずと言っていいほど怪訝そうな面持ちだ。
雪ちゃんが小学生にしては高身長だということはわかっている。しかし、小学生から見下ろされているという事実は変わらないため、複雑な心境だ。
「将来の自分の姿って、何を描いたの?」
「も、勿論…それは…ええっとぉ…。」
顔を赤らめ、俯く雪ちゃん。
「なんだよ教えろよー。」
「ゆ、優ちゃんとの結婚式だよってあぎゃああああ言ってしまったあ!ごめん優ちゃん私は帰らせていただきます故これにてドロン!」
「…え!?ちょっと待っ…うわ雪ちゃん足はや!!」
足が長いからか、とても追い付けそうにない速さだ。
暫く呆然と立ち尽くしたあと、雪ちゃんの言ったことが頭に浮かんだ。
“優ちゃんとの結婚式”…。それは、つまり、そういうことで。
「言い逃げとかずるいなあ…。」
熱くなる、顔。
◇◆◇end◆◇◆