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□不器用な人
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―あいつと出会ったのは、ある朝の駅のホームだった。

目の前で起こったのは、同じ制服を身に纏った男子高校生の鞄につけられた定期入れの中から、するりと、定期券が抜け落ちた光景。これは定期券が落ちたことに気づいてなさそうだ、と思い、すぐさま拾い上げた。そして、定期券を持っていない方の手で彼の肩を軽く叩いた。



「定期券落としましたよ。」

「え?…ああ!どうもありが……。」



彼は、まずあたしが持っている定期券を見て驚いた表情をした。そのあと、あたしの顔を視界にうつした。…のだが、急にフリーズしたように動きが止まってしまった。え?これあなたのですよね?



「あの、」

「結婚しよう!!」



…はい?










―――――――――――
――――――
―――




「ちょっとちょっとお!真琴、それマジの話?」



只今昼休み中。机越しに向かい合って弁当を食べているクラスメイト―ひかるに今日の朝の出来事を話したところ、身をのりだして目を輝かせ始めた。…相談する相手を間違えただろうか。



「当たり前だろ。嘘の話してどうすんだよ…。」

「ひええ、さすが美人と評判の浦井真琴さんですわー。」

「喧嘩売ってんのか。」

「違うわよっ…てか、いーなー羨ましー!少女漫画みたーい!」

「何言ってんだ!ひかるには分からないのか、この恥ずかしさが!」

「えー?」



小首を傾げ、人差し指を口元に寄せたひかる。
わざとらしいキョトンとした顔からするに、ひかるはあたしがした話を面白がって聞いているに違いない。



「なんっにも面白くねぇっつーの…。」



大きな溜め息とともにそう吐き出した。



「ご、ごめんごめん!ちゃんと真面目に聞きまーす。」

「…にやけてんぞ。」

「気のせいだよ!で!?その公開プロポーズのあとどうなったの!?」

「公開プロポーズっておまえ…。」



ひかるはあたしの次の発言を楽しみに待っているようで、彼女の好物である唐揚げに全く手をつけず、あたしの目を真っ直ぐ見つめている。その目からは、“はやく話せ”という本心がびしびしと伝わってきた。



「…呆然としてたら、ちょうど電車がきて…。」

「はっはーん、んで、その勇者から逃げるようにして電車に乗り込んだってわけね。」

「に、逃げるようにしては余計だ!」

「あら、じゃあ隠れるようにして…かしらぁん?」

「ううう煩い!は、はやく弁当食べろ!」



意地の悪い笑みを浮かべて話すひかるの口に、ひかるの弁当のおかずを詰め込んだ。






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