ぐるり、ぐるり
□02
1ページ/1ページ
「いやあ、なかなか面白い茶番でしたよぉ!」
拍手と一緒に響き渡る声。それらは反響し、音の主がどこにいるのか分からない。
「何…?誰!どこにいるの!」
「隠れてないで出てこい!」
「ベタな台詞ありがとうございますぅ。」
あ、こいつ嫌な奴だわ。絶対性格悪い。
「何なんだ一体…。無視して行こうぜメイね…ぐっ!」
「ど、どうしたのアカル!」
眉を寄せ、足首を押さえ込むように丸くなったアカル。―荒い息遣いに険しい表情。ああ、アカルはあたしを庇ったために、あたしが負う筈だった傷を余計に負ってしまったんだ。
「アカル…。」
なんて情けない姉なんだあたしは。こんなとき、傷を治す魔法でも使うことができたら…。無力な自分に嫌気がさし、無意識に地面の土に爪をたてていた。
「こんくらい大丈夫だって…。それより、はやく帰らないと日が暮れるぜ。」
「…わかった、はい。」
「…いや、なんで俺に背を向けてしゃがみこんだの。」
「おぶるからよ。」
「いやいやいやいや、おかしいだろ!」
「いいから、はやくお乗り。今ならタダだから。」
「メイ姉が俺担いでいける訳ないだろ!」
「大丈夫。」
「どこからそんな自信が出てくるんだよ!…俺のことはいいからさ…。」
―置いていけって言うの。そんなこと、できるわけないじゃない。
そう続けようとした。しかし、これ以上喋ったら声が震えてしまいそうで、…泣いてしまいそうで、喉まできていた言葉を呑み込んだ。
アカルもきっと、痛みを我慢して言葉を紡いでいるのだろう。何故わかるかって?いつもよりツッコミのキレが悪いからだ。普段のアカルはもっと―…
「お互い強がりなんですねぇ。もっと素直に生きましょうよぉ。」
嫌味な口調。それはまさしく先程聞こえた謎の声だったのだが、トンネルの中のように響いていた声は、すぐ上から聞こえたような気がした。…誰かが近づいてきた気配はしなかったのに。
俯いていた顔をあげた。スーツ。真っ黒な、スーツだ。視界に入ったのは、ピシッとしたスーツに包み込まれた足。そのままゆっくりと、更に顔をあげた。
「どうも、お助けしましょうかぁ?」
小首を傾げ、右手を差し出してきたのは、
「…う、」
「はい?」
「兎だあああああああああああああ!!」
―真っ白なお顔の兎でした。
いや、正確には兎の頭の被り物をしたスーツを着ている男だ。…うん、自分でも何言ってるんだろう。見間違いかと何度も男の顔を見た。だが、幾ら見ても兎だ。兎。
男のすらりとした体型に、ちょこんとのっているファンシーな兎の顔が逆に不気味で、もうどこからどうツッコめばいいのかわからない。
―あ、森の妖精さんかしら。
◇◆◇◆◇