心臓がたりない

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ううむ。私がいた世界に戻るために、まずは私が入ってきた扉を開いてみたいのだが、―こいつらは私を帰す気がないようにしか見えない。はて、どうしたものか。素直に帰ると言ってみるか、隙を見て扉へ駆け込むか、…駄目だ。どちらも上手くいきそうにない。



「て言うかさ、透子ちゃんこれからどうするの?」



―救いの声が聞こえた。よし、この問いに対する答えの流れでこのまま帰らせて頂こう。



「私がいた世界に帰、」

「だからよぉ、透子は俺のもんなんだからこれからどうもこうもねぇよ。」



く…本当ヤオガは何なんだ。どうして私を遮って根も葉もないことをスパンと言ってしまうんだ!せっかくシャクラが空気を読んだと思ったのに!



「今は透子ちゃんに聞いたんだよ!ヤオガくんは、しー。」

「あぁ!?ガキ扱いしてんじゃねぇよ!」

「ごめんね、全くうちの子が煩くて…。」

「てめぇは俺のお袋か!」

「シャクラありがとう…。」

「わーどういたしまして!」

「は、ちょ、何で透子の中でシャクラの株あがってんだよ!」



意味わかんねぇ、と不満感を露わにしながら吐き捨てるヤオガ。今にも噛み付いてきそうな雰囲気を醸し出している。…あれ、前にもこういうやり取りしたな。



「ご機嫌斜めだなぁヤオガくん。」

「…るせぇ。」

「よしよし。なでなでしてあげよう。」

「触んな俺はシャクラアレルギー持ちだ。」

「……………あ、へぇー…。」

「おいくだんねぇなって顔してんじゃねぇ。」

「くだらないね!」

「声に出せばいいって意味じゃねぇ!」

「おお…。」

「何感心してんだ透子。」



二人が仲良くボケとツッコミを繰り広げる様子を見ていると、無意識に感嘆の声をもらしていた。



「いや、いいコントだな、と。」

「コントじゃねぇから。」

「コンビ名どうする?」

「黙れ。」



ヤオガから見下ろされ冷たくあしらわれたシャクラは、おいおいと嘘泣きをしながら私の肩を抱く。さも当たり前のようなシャクラの動作にぎょっと目を見開いた。ほんと、何故、こうも、距離をつめてくるんだこいつらは!



「…で、透子ちゃんはどうしたいの?」



耳元をくすぐる甘い声。普通に聞いてくれ普通に!シャクラの息遣いが触れて、なんだかむず痒い。どぎまぎしてうまく言葉を発することができず、横目でシャクラを見れば、目を細め、優しく微笑み返してきた。…絶対こいつ女性との付き合いに慣れてるな…。押し返そうと思っていたのに、ふわりとした笑みを不意に綺麗だと感じてしまい、伸ばしかけていた手は行き場を失った。

―すると、シャクラから私の肩を抱いていた手を離し、三、四歩距離をおいた。依然笑みを浮かべたままではあったが、若干青ざめた顔をしている。それらを疑問に思ったのは、ほんの数秒だった。
前を向けば、そこには青筋を浮かべ唇をわななかせている恐ろしい形相をしたヤオガが仁王立ちしていたからだ。



「透子、どうしたいんだ。」



腹の底にずっしりくる重低音。こんなに高圧的な質問をされる日が来ようとは。更に機嫌を損ねるようなことを返したら、二度と口をきけなくされてしまいそうだ。けれど、私は本心をぶつけるんだ!



「…かえ、り、たい。」



これは私の声か?と疑うほど掠れた声が出た。みっともないが、体が恐怖で震えそうで、それを抑えるので精一杯だ。



「いいぜ、帰してやるよ。」

「…え。」

「だが、」



―…ん?いや、いやいやいや、え、なに、くち、び、唇、感触。



「俺の女になれ。」



―誰か、今の状況を。





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