心臓がたりない

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そういえば、だ。



「や、ヤオガの能力は何なんだ?」



ヤオガとシャクラの腕の中をふらふらしている状況が続き、そんな状態に耐えられなくなったというのも勿論理由に含まれるが、ふと気になったため、ヤオガに尋ねた。すると二人はピタリと動きを止め、睨み合っていた目線をお互いそらした。そんな二人の様子を訝しむ暇もなく、不安定な体制だった私は咄嗟にヤオガの胸にもたれかかっていた。



「うわわわごめ、」

「ねぇよ。」

「…え?」

「俺は能力なんか持ってねぇ。」



怒りとも悲しみともとれない声色で、ヤオガは言った。
私は、てっきり魔物にはそれぞれ何らかの特殊な能力があると思っていた(というか、シャクラがそう言っていたような気がする)が、そういう訳ではないのだろうか。
ヤオガから体を離し、表情を見ようと顔をあげようとしたが、頭をヤオガの胸におさえつけられ、むぐ、と情けないくぐもった声を出すことしか出来なかった。…えーと、とりあえず静まれ私の心拍数。

―聞いてはいけないこと、だったのかもしれない。単に全ての魔物が能力を持っていないだけならばそれだけだが、先程までとは打って変わったヤオガの口調がどうも引っかかる。



「こらヤオガくん!」



―シャクラの声がしたとほぼ同時に、後頭部に感じていた重みがなくなった。ヤオガの胸から顔を離す。おさえつけられて若干息苦しかったのが、自由に空気を取り込めるようになり、高鳴った鼓動を静めるためにも深く呼吸した。



「ヤオガくんってば、隙あらば透子ちゃんのこと独り占めするんだからー。」

「文句あんのか?」

「あーりーまーくーりー!」

「いちいちうぜぇな。」



どうやら、シャクラがヤオガの腕を掴み私の後頭部から離したようだ。うざいと言われ頬を膨らませたシャクラに、ガキかよと言い捨てながら腕を振り払うヤオガ。特に変わらない二人の言動に少しホッとしていると、ヤオガと目が合った。どきりと心臓が一はねした。



「…透子。」

「な、に。」



呼びかけられ、ついどもってしまった。露骨に視線をそらすことも出来ずにいると、ヤオガは私と同じ目線の高さに合わせるように上半身を前のめりにし、片方の口端をつりあげ、



「おまえ、すーぐ顔赤くなるよなぁ。これ以上のことしたらどうなんだよ。」

「…喧しい。それにこれ以上のことって何、」

「透子ちゃんそこ掘り下げなくていいから!!」

「いきなりでけぇ声出すなシャクラ!!」



ヤオガの能力について触れたことに対して言われるかと思ったが、まるでそんなやり取りはしなかったかのように振る舞われる。それは大したことじゃないからなのか、再び盛り返すことを避けているからなのかは分からない。だが、何と無く、自分からまた尋ねるのはやめた方がいいような気がした。

―とにかく、元の世界に帰ることを考えよう。





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