心臓がたりない
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「おまえらは…人間じゃないんだな…。」
「ああ?ったりめぇーだろ。」
「いや、うん、わかってる…つもりなんだが…。」
説明を受ければ受けるほど、どこの漫画の話だよと呆れてしまう。ここは魔界で、目の前にいるのは魔物で、その魔物には特殊な能力があって。ああ…最早笑えてくる。
「んだよ透子。説明しろって言っておきながら、説明されたことを受け入れられねぇみてぇだな。」
シャクラから離れ、私に近づいてきながら鼻で笑うようにそう言ったヤオガ。…ヤオガの言うことが的を射すぎていて、何も言い返せない。黙り込んで俯いていると、ヤオガであろう大きな足が目に入った。すぐそこに、ヤオガがいる。
「考えたくねぇなら、食ってやろうか。」
「………っ!」
にやりと不敵に微笑み、物騒なことを言い捨てた。思わず顔をあげると、ぎらついた目が真っ直ぐ私をとらえていた。
ヤオガのペースに巻き込まれてたまるかと口を開いたが、すっとヤオガの冷たい右手が頬を滑り、驚いて口を半開きにさせたまま止まってしまった。なななな、なんだなんだ。らしくない優しい手つきに不気味さを覚えていると、そのままヤオガの右手は滑っていき、私の髪を、私の耳にかけた。そして、執拗に耳を弄ぶ。慣れない妙な感じに、無意識に身をよじらせた。
そんな私を一瞥してから、ヤオガは右手を首筋に沿って滑らせていく。…あれ!?今何が行われているんだ!?いつの間にか思い切りヤオガのペースに巻き込まれてるじゃないか!
「はいストーーーーップ!ヤオガくん、調子にのらない!」
「チッ、邪魔すんなシャクラ。」
「黙って見てたらいい気になって!この万年発情期め!」
「はぁ!?」
シャクラがヤオガの右手を掴み、私の肌から離れさせた。あ、あああ危なかった…危なかった…!!
「透子ちゃんも好きに弄らせちゃ駄目でしょ、こんなえろ男に!」
「え!?…っあ、ああ…。」
「誰がえろ男だよボケ!シャクラだって、透子の顔見て発情してたんじゃねぇのかぁ!?」
「んんん!?ヤオガ何言って、」
「そうですけど何か。」
「シャクラ!?」
「おめぇのほうが変態だろうが!!」
何を言ってるんだこいつらは!と言うか私は一体どんな顔をしてたんだ!もう嫌だこいつら!
急に恥ずかしさがこみ上げてくる。穴があったら入りたいとは、まさに今の心境だ。されるがままだった自分が情けない。
「もう透子ちゃん嫁においで、もとの世界になんて帰らずに。」
気付けば、私の左手はシャクラの両手に包み込まれていた。何故いきなりそんな話になるんだ。
「幸せにするよ。」
「何口説いてんだコラ。」
「だって透子ちゃん可愛いんだもぉぉん。」
「きめぇしうぜぇ!」
「そんな暴言ばかり吐く口は塞いじゃうぞー。」
「ギャアアアアアやめろ!!」
「冗談に決まってるでしょ。ほら透子ちゃん、ヤオガくんは洒落もわからないつまんない男だよ。だから、ね?」
「いや…何が『ね?』なのか全くわからないんだが…。」
「つーか、透子は既に俺のもんだから。」
わ、と声をもらした。不意にヤオガが私の肩を抱いて引き寄せたのだ。近い!それにいつ私がヤオガのものになった!
「透子ちゃんはものなんかじゃないよ!それと、もう僕の彼女だから!」
今度はシャクラから引き寄せられる。こいつも何おかしいことを堂々と言ってるんだ!彼女って!シャクラの恋人になった覚えは全くないぞ!
「てめぇ頭大丈夫か。」
ヤオガこそ大丈夫か!
「僕の頭の中は透子ちゃんという妻でいっぱいだよ。」
シャクラおまえさっきは彼女って言ってたよな?恋人もちがうが夫婦でもないぞ!
あっちにいったりこっちにいったり。ヤオガから引き寄せられシャクラから引き寄せられ。完全にもの扱いじゃないか!
―深刻に悩んでいた私が馬鹿みたいだ。
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