心臓がたりない
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自室のクローゼットがこの訳のわからない世界に繋がってから、体感でおよそ一時間。
先程左隣に座っていたシャクラは、ヤオガから強引に私の向かい、つまりヤオガの隣に座らせられていた。シャクラは納得がいかないのか、頬をふくらませ、不機嫌だということを目一杯アピールしている。子供かよ。
「あー!今透子ちゃん僕のこと『なんだよコイツ、がきんちょみたいな態度して。』って思ったでしょー!」
「いや、『子供かよ。』とは思ったがそこまで鼻で笑ってはいない。」
「…透子ちゃん結構キッパリ言うね。僕そういうの好、」
「ドMは黙っとけ。」
「はーい黙ってまーす。」
くるりと背を向けたシャクラ。本当子供かよ。
―初めはこいつらにびくついていた私だが、もう慣れてしまった。と言うか吹っ切れた。とにもかくにも、怖じ気づいたままではいけないのだ。自分から行動し、現状を把握しなくては。
「…ここは、どこなんだ。」
聞きたいことを真っ直ぐ告げた。
―窓から見えるのは、見慣れた青空ではなく深い闇。そして、目の前にいるのは人間ではないものたち。私が住んでいる世界とは明らかに違うこの世界は、一体何なのか。
「俺の部屋だ。」
「…いや、まあそれは何となく分かっていた。うん。」
「ヤオガくんのほうが僕より空気読めてないじゃんか!」
「何だとてめぇ!俺のどこが空気読めてねぇっつーんだ!」
「天然さんだなあ。はあ。」
…ずるっと古典的なコントのようにこけたい気分だ。私の質問に、ヤオガは至って真面目に答えたつもりなのだろう。答えとして間違ってもいない。しかし、私はもっと大きく考えて答えてもらいたいのだ。…何と質問したらよいのだろうか…。
「僕が答えるよ。…ここはね、人間が言うところの魔界ってやつかな。」
いつの間にか正面を向いていたシャクラが、静かな調子で淡々と話した。
「…魔界?」
「そ。魔界。」
尖った歯をちらつかせるように笑みを浮かべたシャクラ。
…魔界って、悪魔とか魔物がいる世界のことだよな。そんな世界と、私のごく普通のクローゼットが繋がってしまったのか。なんて現実味のない。頭では私は今異世界にいるということを考えられても、いまいち受け入れることができず、口をつぐんだ。言葉が出てこない。
「ここはどこってそういう意味かよ。」
「当たり前でしょーが。そして、僕たちは透子ちゃんとは全く違う世界を生きているもの…まあ、魔物とかそんなやつかな。とりあえず人間ではないのだ。」
「俺らは人間の存在を知っているんだが、人間は俺らの存在を知らねぇんだな。」
「だね。あ、それと!個々には色んな能力が…って、透子ちゃん何してるの?可愛いんだけど。」
「…何でもない。可愛くもない。」
これは夢なのでは、と思い頬をつねっていたところ、シャクラに気づかれたので手を離した。
「…続けてくれ。」
―つねった箇所が、ヒリヒリと痛む。
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