心臓がたりない

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「透子ちゃん、まず何から説明したらいいかな?」



―私は今、ソファーに腰掛けている。左隣にシャクラ、向かいにヤオガといった感じで。
シャクラに自分から抱きついてしまったあと、困惑し、そのまま硬直していた。ヤオガが恐ろしいことを言ってきたため、シャクラがかなり優しい奴に見えて…って、それでなんで私はシャクラに抱きついたんだ!抱きつく必要なんてないのに!少し前の自分を殴りたい。

とにかく離れよう。そう思い行動に移ろうとしたが、シャクラから無言で頭を撫でられた。何だ!?と吃驚していると、シャクラに今度は手をひかれ、ソファーに座らせられた。何も話さず笑顔のままのシャクラは不気味だったが、それよりも大きな舌打ちをしながら向かいに座ったヤオガのほうが恐怖の対象だった。



「…説明の前に…。」

「うん?」

「手を、どけてくれないか。」



何故か、シャクラの右腕が私の肩にまわされているのだ。そのため距離が非常に近い。顔を左に向ければ、視界にシャクラしか映らない程近い。
自分の意思とは関係なく紅潮する顔。…こんなに密着して座る意味ないだろ!こいつらはスキンシップが激しすぎる!



「さっきは透子ちゃんから抱きついてきたくせにー。」

「あ、あれは…!」

「えい!」

「うわああああ!?」



手をどけるどころか、抱きしめてきたシャクラ。



「離れろ!」

「ごめんごめん、透子ちゃんが可愛くてつい。」



シャクラは満面の笑みでさらりと妙なことを言いながら、あっさり離れた。心臓に悪いな全く…。でも、シャクラは私を食べようとしてこないのでヤオガと接するよりかは比較的楽だ。

…そういえば、ヤオガが静かだな。ふと目線はヤオガに向いていた。
―思わず、身体が強張った。目線の先にいるヤオガは、眉間に皺を刻み込み、目付きが凶悪で、いかにも不機嫌な様子だった。無言でこちらを睨み付けている。漂う怒りに気圧され、冷や汗が頬を伝った。



「ヤオガくん、透子ちゃんが僕に抱きついてきてから、ずっとあんな感じなんだよねー。」

「…何故。」

「ふふふ。僕が思うにヤオガくんは透子ちゃんのことを、」

「んな訳ねぇだろ馬鹿野郎ぶっ殺すぞ!」



怒鳴り声を上げ、立ち上がった勢いでシャクラに掴みかかったヤオガ。不意打ちに心臓がとびはねたが、やはりシャクラは落ち着いていた。



「やっと喋ったー。」

「…てめぇの言動はいちいちむかつくんだよ!」

「きゃーヤオガくん、こっわあい!」



裏声で言いながら引っ付いてきたシャクラに、思わずドン引き。



「透子も引いてんぞ、気持ちわりぃ。」

「素敵なジト目ありがとう透子ちゃん!」

「ウインクしてんじゃねぇよ!」



ギャーギャーと言い合い(ほぼヤオガの一方的なものだが)がまた始まった。本当仲良いな…。
いや、呆れている場合ではない。私は二人の口論が見たいのではなく、説明してほしいのだ。ここはどこで、二人は一体何者なのかを。…よし、このままでは埒があかない。自分から尋ねよう。



「…なあ、説明してほしいんだが。」

「シャクラは昔っから空気が読めないせいで、女ができてもすぐフラれてたよなぁ!」

「でも結局みーんな僕のとこに戻ってきたよ?」

「はぁ!?見栄はってんじゃねぇよ!」

「いやこれマジだから!」



私の声を聞いちゃいない。
依然として言い合っている二人。



「説明しろって言ってるだろ!!」



―なんかもう、吹っ切れた。





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