心臓がたりない

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一体、私はどうしたらよいのだろうか。



「ねーねー人間の君!名前は何て言うの?」

「話しかける余裕なんてあんのか!?おい!」



ガタガタ、ガチャン、パリーン。それ以外の激しい音も、絶え間なく響き渡っている。正直、耳を塞ぎたくなるほど喧しかったが、起きている事態をただ見ていることしか出来なかった。

何故そんな音がしているのか。…それは簡単に説明できる。
ヤオガとシャクラの戦闘が、繰り広げられているからだ。

―事は、ヤオガが前触れもなくシャクラに殴りかかったことがきっかけである。目前をヤオガの右腕が横切ったとき、あまりに唐突だったため驚いて尻餅をついてしまった。
シャクラはそれを平然と避け、避けた態勢のままヤオガに蹴りをくらわせようとした。しかしヤオガはその蹴りを受け止め――…と、攻防が続き今に至る。



「もう、傷付くなぁ無視とか。ちゅーしゃうぞ!」

「気持ち悪いこと言ってんじゃねぇよ!」



こんな会話(のドッジボール)も、戦いながら交わされているのだ。



「もう訳がわからない…。」

「じゃあどのことについて説明してほしい?」

「うわあ!?い、いつのまに…。」



隣からの声に顔を向ければ、そこにはしゃがみこんだシャクラがいた。ふふふ、と笑い声をもらしながら笑顔でこっちを見てくるシャクラ。いやいや、おまえ今ヤオガと喧嘩してるのに呑気にこっち来るなよ!と言うようなツッコミが出そうになったがのみ込んだ。変なことを言って、怒らせてしまっては大変だ。



「そいつに近付くな!」



ヤオガが拳を振り落とした。シャクラに当たる…なんてことはなく、涼しい顔でひょいといとも簡単に避けていた。

くれぐれも言っておくが、二人の争いは並の人間のものとは速度が全く違う。目で追い付くのがやっとなくらいだ。
しかし、依然二人は無傷のままである。シャクラの態度からするに、きっとヤオガとの争いはもう慣れっこなのだろう。

とりあえず、こちらにこれ以上飛び火しないよう部屋の隅に寄った。…いや待てよ、この隙にここから逃げられるのではないだろうか。二人はたまに私のことを気にする素振りを見せるが、基本的には争いに夢中である。
今逃げ出さなければ、私は二人のご飯になってしまうかもしれない。そんな考えが頭の中を過った途端、動き出していた。二人に勘づかれないように、そろりそろりと移動する。こっちに気づくな、と念を送りながら。



「名前くらい教えてくれたっていいでしょ?」



―声を発する間もなく、シャクラに横抱きにされた。



「お、おろせ!」

「暴れないでよ。本当にちゅーしちゃうぞー、ほら。」

「何言って…って近い近い近いって!!」

「シャクラァ!よっぽど八つ裂きにされてぇみてぇだな!」

「わ、私を巻き込んだまま喧嘩するのはやめろおおお!」



ヤオガが鬼の形相でシャクラに攻撃している。私はシャクラに横抱きにされているままなため、いつヤオガの攻撃が当たるか怖くて仕方がない。



「名前言ったらおろしてあげるよ。」



シャクラは口角をつり上げてそう言ったものの、…目が笑っていない。
本能的に危ないことを察知した。



「…冬橋透子。」

「フユハシトウコ?長い名前だね。」

「あ、いや…名前は透子…。」

「あーそっか、人間には姓ってのがあるんだったね!僕はシャクラだよ、よろしくね透子ちゃん!」



―テーブルのような台の上におろされた。やっと解放された、先程少し巻き込まれただけで随分と寿命が縮んだ気がする。
安心して、一息吐こうとした。が、ヤオガから引っ張られ、シャクラから隠すようにして後ろにまわされた。



「俺はヤオガだ、透子。」

「え?あ、ああ。」

「ヤオガくんってば、僕に嫉妬してるの?まったく可愛いんだからー!」

「きめぇ寄るな消えろ。」

「もっと言ってくれて構わないよ。」

「このドM野郎が!」



ヤオガの後ろに隠された私を見ようと、シャクラは左右から覗き込んでくる。しかし、その動きに合わせてヤオガも私を隠す。



「ヤオガくんのケチ!」

「なんだとコラ!」



今度は言い争いが始まった。…喧嘩するほど仲がいいってやつか、こいつら。感覚がおかしくなったのか、なんだか微笑ましく感じてきた。



「透子ちゃんに色々と説明してあげないと可哀想でしょ!」

「ああん?透子は今から俺が食うんだから説明とかいらねぇよ。」



―無意識にシャクラに抱きついていた。





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