心臓がたりない

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「おおっと、お邪魔しちゃったかな?ヤオガくん。」

「てめぇ、いい加減空気読めよ。毎度妙なタイミングで入ってきやがって…。狙ってるだろ。」



呆れと苛立ち、両方を浮かべた表情をしながら男―ヤオガはそう言い捨てた。…毎度ってつまり…と、思わず考えを巡らせていると、いきなり右腕を引っ張られ起き上がらせられた。そしてそのまま自分の胸に私の頭を押し付け、もう片方の腕は腰にまわしてきた。…ん!?こ、これって…私は抱きしめられているのか!?

驚きのあまり体を硬直させた。顔もだんだん熱くなり、きっと私は今赤面しているだろうと容易に想像できた。



「腕を俺の背中にまわせ。」



―耳元で囁かれた。反射的に、両腕をヤオガの背中にまわしていた。



「ほら、とっとと出ていけよシャクラ。俺とこの女ははやく続きがしてぇんだよ。」

「…わかってるよ、失礼しましたー。」



パタン。ドアを閉める音が聞こえた。



「…シャクラの奴、行ったか…。」



ヤオガは嫌悪感丸出しで呟いた瞬間、私を抱きしめる力を緩めた。
逃げ出すのなら今だろう。しかし、恥ずかしながら、私は異性に抱きしめられたのはこれが初めてなのだ。おまけに耳元で囁かれた感触がまだ残っている。赤くなった顔は、全く冷めずにいた。

思うように体が動かせない。どうしようかと焦っていると、両肩を掴まれた。
目の前には、ヤオガの顔。



「…真っ赤だぞ、おまえ。」

「っ!!」



指摘されたことでさらに恥ずかしくなり、赤くなっていた顔は湯気が出るほど熱くなるのを感じた。



「あー、なるほどな。おまえ耐性が全くねぇんだろ。」

「う…!」

「おかしいと思ったんだ。反抗的だったおまえが、いきなり大人しく俺の言うことに従ったからよぉ。」

「あ、あれは…その…。」

「面白ぇ。」



にやりと凶悪な顔つきになったヤオガ。―蘇る恐怖。そこでハッとしてヤオガを突き飛ばし、逃げようと背中を向けた。しかし、そんな行動はお見通しだったようで、すぐにまたヤオガの腕の中におさまってしまった。
後ろから顎を掴まれ、強引に振り向かせられる。鋭い歯を覗かせたヤオガの顔が、目と鼻の先にあった。ぎゅっと強く目を瞑る。…食べられる!



「はっはーん、この子、人間だったんだあ。」



楽しげな口調。それは、先程出ていった筈の男―シャクラが発したものだった。
何故ここに?ドアが開かれた音は聞こえなったが。
閉じていた瞼を恐る恐る開くと、一歩先にシャクラは立っていた。満面の笑みで。



「…シャクラ、てめぇ能力使いやがったな。」



…能力?



「そのとーり!なぁんか匂うなと思ってさ。二つの意味で。」

「二つの意味だと?」

「ヤオガくんが、あからさまにこの子の顔が僕に見えないように隠したのが怪しかったっていうのと…。」



シャクラはいったん話すのを止めると、私の髪を一束手にとり、それに軽く触れるだけのキスをした。



「この子から、とっても食欲をそそる美味しそうな匂いがしたってこと!」

「ほう…。」



―どんな匂いがするんだよ私!





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