長編

□共存の先にあるもの6
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「黒白さま。街にいる者からの情報で、輪が特殊な人間を迎え入れたそうです」
「特殊な人間?…具体的には」
「それはまだ分かっておりません」
「ふん、まぁいい」


黒白と呼ばれたものは口元を緩め不適な笑みを浮かべていた。彼は火不火の重要責任者であり、輪が倒すべき相手。街中に能力者を放ちあらゆる情報を手にしていた。もちろんその中には輪の情報も多少なりとも入ってくる。まだ花礫という存在しか知られていないが、いずれは明らかになるだろう。











花礫が輪と関わってから半年以上の日が経ち、花礫の細胞を利用した薬は完成間近。試薬の段階で、花礫を救出した際の保護した少女らに投与した結果、能力者の細胞が完全に消滅することに成功した。

これも燭を筆頭に研案塔の面々が優先的に研究を重ねた結果である。

しかし、この薬は完全に能力者に支配されてしまった者には効かなかった。やはり能力者の最期は葬送でしか救えないことに、期待と諦めの感情があった。

それでもこれは大きな前進と言っても過言ではなかった。各地の能力者情報を元に壱號艇、貮號艇の闘員は薬を持ち戦闘に挑んでいた。

救える命が増えることで、闘員たちの任務に対するモチベーションが上がる。
これには、火不火も異変を感じ輪に対する情報を集めていた。




「花礫、すまないがまた細胞を採取させてくれ」


本日、研案塔にて検診を受けている花礫は燭から細胞採取を依頼される。

どういう原理かはまだ解明されていないが、この細胞は花礫の体内でしか生成されない。被験者となった子供らの体内には既に細胞は存在しておらず、他者の体内での生成は望めない。

採取には一つ問題があった。


「…え…もう?」
「悪い、薬の残りが少なくなってきている」
「まぁいいけど。でも、すごく疲れるんだよね」


細胞は血中で生成され、一度に1000ml以上の血を抜いてはそれを大量に薬にするのだが、花礫にとってそれは辛いものであった。

元々低血圧の花礫は貧血を起こし、正常になるまでに時間が掛かる。抜いた分の血を輸血すればいいが花礫はそれを拒否している。

不特定の人間の一部が自分の体内の一部になるのは気持ちが悪いという。


それ故に肉を食べて自然に血を生成するしか方法が無い。


「お前にしか出来ないことだ。負担を掛けるがよろしく頼む」
「…うん」
















「最近、火不火の動きが落ち着いてるように思えるのって俺だけですか?」
「…そうだな。俺もそう思う」


平門と與儀は報告書の纏める雑務をしていた。
単調な作業に與儀は話をしながら手を動かそうと平門に声を掛ける。

例の薬を用いた戦闘に火不火もきっと情報を集めては何らかの対策を練っているはずだ。


「花礫ちゃんの事、バレてると思いますか?」
「…花礫の存在を隠し通すのは難しいし、おそらく火不火は花礫を狙ってくるだろう」
「でも、ずっとこの艇にいれば花礫ちゃんは安全ですよね」
「與儀、それが本気の言葉なら俺は失望するぞ」


安直で油断しかない発言に平門は一つため息を零し

呆れる。輪の艇は比較的安全と言えるが、何があるか分からない。一度でも火不火に関わってしまうと、常に危険と隣り合わせの状態だ。

しかし、それを自ら望んだのは花礫。15の年齢で恐怖することなく選んだのは、平門との約束が花礫自身を強くしているからか。


「冗談ですよ…!」


自分の失言に慌てて応えて書類を握りしめた。


「先に言っておくが、あまり花礫に情を抱くなよ」
「え?」
「保護対象ではあるが必要なら囮に使う。花礫もそれを承知で艇に乗っているんだからな」
「…囮って…!それこそ本気で言ってるんですか?!」
「あくまで最終手段としてだ。普段はそうならないようにお前達を傍に置いている」


最終手段と言われても戦う術を持たない花礫を囮にするなんて、與儀には考えられないことだった。
いくら上官の命令、作戦でも素直に頷けない言葉に與儀はぐっと奥歯を噛みしめた。

與儀は優しいから誰かを犠牲にする度に心を痛め、それを糧に次の戦闘に臨んでいる。

強く弱く、特化戦闘員で最も人間らしい人間だ。


「そう気にするな。言っただろう、最終手段だと」


そろそろ花礫を迎えに行く、と平門は言い部屋を出て行った。
残った與儀は書類を片しながら、平門の言葉を考えていた。輪の目指すべき所を考えれば、囮を必要とすることもあるだろう。それは花礫と出会う前にも何度かそういう作戦があり、頭では理解しているが
どうしても心が追い付かない。


「…そうならないように、守ってあげなきゃ」
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