短編
□紅い月は暗示する
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「・・・赤いねぇ」
今日僕は『とある場所』のベランダにて、手に持つ女の子人形に話しかけている見るからに怪しすぎる男の隣で深いため息をついていた。
おかしい。僕はただ『月が綺麗だから外で眺めてみないか?』と誘ってみただけだったのに。
なんでコイツはこうもテンションが低いのだろうか。
『おい、お前大丈夫か?なんかあったのか?』
トントンと肩を叩いて聞いてみれば、相手は目をカッと開いて「あったよ!」と大声を張り上げる。
「なんかも何もコロシアイだぞコロシアイ!お前心配じゃねぇのかよ!」
『僕らが心配しても仕方ないだろ。大人しくアイツらを待つしかない』
「冷静すぎなんだよお前は!俺は心配で心配で夜もろくに寝られないくらいなんだからな!」
『寝てないのはいつものことだろ・・・』
「うっせぇ!」
相手はまた下を向いてブツブツやっている。
まぁ、コイツの気持ちも分からなくはない。僕だって正直コイツと同じぐらい心配で不安だ。しかし考えて考えて、結果的に今のスタンスに落ち着いているのだ。
つまはじきの僕たちには成す術もない。心配したところで現状は変わらない。嘆いたところで『アイツら』の所へは行けない。
なら、待つしかないじゃないか。
アイツらを信じて最後まで待つしかないじゃないか。
今の僕はそう考えた上で、ここにいるんだ。
「・・・(ちょいちょい)」
手招きのような仕草で気を引いて、上の満月を指さした。相手には何が何だか分からないようだが、まぁ、アレだ。
『一旦落ち着け。ほら、綺麗だろ?』
「お前が落ち着き過ぎるんだろうが。・・・はぁ」
『僕はそういうヤツだからさ』
「あーそうかいそうかい。阿呆が」
「コイツはホントに阿呆だよなー」とまたも人形に呟いている彼は、なんというか・・・はたからみれば変人に部類されるのだろう。
僕は慣れているから全く気にならないが、まぁそうだな、他人が見たらまず救急車呼ぶぐらいの重症且つ怪しい人間だと思う。
『・・・お前さ。その・・・何?人間に話しかけんの止めない?』
「『人間に話しかけんの止めない?』だって?!今俺すげぇ傷ついてんだけど!?お前漢字間違えてねぇか!?」
『あ、ホントだゴメン』
ピッピッとペンで『間』を消し、『形』に書き換える。
『人形に話しかけんの止めない?』
「あ、あぁ・・・。ただの漢字間違いでホント良かったわ。今のがなかったら軽いジョーダンで流そうと思ってたんだがな・・・」
「・・・」
「止めろ真顔と見せかけてドヤ顔すんな」
はぁ、と先程僕がしたようなため息の後、相手はまた紅い月を見上げる。
「・・・だって仕方ないだろ。誰かに聞かないと落ち着かないんだよ。ホントに大丈夫なのか、さ」
「・・・」
「まぁでも、さっきお前が答えてくれたからちょっと安心したわ」
『・・・そうか。アイツらが無事に帰ってきてくれるといいな』
「ああ。俺たちは俺たちで、アイツらの帰宅を待っとかねぇとな」
輝く宝石をいっぱい散りばめたような星空の下、僕らはそう励まし合った。
・・・星の輝きとは裏腹に、月は赤く紅く光って僕らに不気味な印象を抱かせる。
まるでこれからの顛末を密かに暗示するような・・・そんなどうしようもない美しさを孕んだ、絶望的に綺麗な月だった。
ーENDー