短編

□ハロウィンの夜に
1ページ/11ページ

「「trick or treat」」

「……はい?」


10月31日、世間で言えば子供がよく口にするハロウィンの日。私は突如ピッキングをしてまで部屋に侵入してきた三人の訪問者(私からすれば侵入者だが)に?マークを浮かべていた。
というか唖然として言葉も出なかった。
その訪問者というのは霧絵さんと右殺君と黄泉人君。まぁピッキングの件で右殺君がいるのは想定していたが、まさかあの霧絵さんまでもがピッキングを許すとは。結構霧絵さん、そういうの許さなそうだったんだけど。

…いやいや、そんなことはどうでもいい。私が今言葉さえ発せないほど驚いているのは私の部屋の鍵がピッキングで開いてしまうほど簡易であったという事実とか、普段一緒にいないような三人がやってきて「へー珍しいなー」とかそんな理由ではない。


「……あのー」

「ん?何かな結月ちゃん」

「…三人共、何ですかその格好は。コスプレですか?」


三人が三人、妙なコスプレをしてやってきていたからだ。


「コスプレじゃないよー仮装だよ仮装」

「いやどっちも一緒だと思いますけど……」

「分かってないなぁ。ハロウィンといえば仮装とお菓子って決まってるでしょ!」


プンプン!となんとも微妙な効果音を口に出して怒っている黄泉人君は、特殊メイクか何かで顔にアザやら何やら描いており、スーツもわざと血?で汚してみたりして完全なゾンビになっている。
霧絵さんは数箇所縫い目のような線を描き、顔は白くて生気が感じられないほど。服はリ○ちゃん人形が着るようなファンシーなドレス、目はカラーコンタクトでもつけているのかフランス人形のように真っ青で、なんかこう……ホントに人形のようになっていて現在の無表情が異様に似合ってしまう。
そして先ほど『魔法の合言葉』を一人だけ言わなかった右殺君。ニット帽を深くかぶってなんとか見られまいと努力しているのが窺えるが、腕の縫い目で大体理解できる。服はいつも通りで、耳にはいつものカフスピアスと三つの輪っかピアスに加えて小さなネジ(の形をしたピアス)。こめかみまでいくと耳についてるのとは比べるまでもないほど大きなネジがしっかり頭に貫通している。そしてそこから(やっぱりメイクだろうが)赤い液体が流れておどろおどろしい。

……ゾンビに、人形に、人造人間。ふむ。


「で、何の用でしょうか。私を祟り殺すとか呪い殺すとかしませんよね?」

「え。一体何の心配してるの」


だってゾンビと人形と人造人間って、どれも人間じゃないし。一つの部屋に集まって何もしないわけがない。
はいそうですよ私はビビリです。幽霊とか本当にダメです悪いですか。


「いえ、全く問題ないでありますよ結月殿!」

「あ。口に出てました?」

「ばっちり☆」


このスーパーウルトラUCM(U:ウザいの略 C:超ウザいの略 M:まじかるウザいの略)な笑みで親指を立ててる黄泉人君には、トリートの代わりに拳をプレゼントすることにした。


「ホントに何しに来たんですか三人共。新手のいじめにしか思えませんが?」

「…えと、ハロウィン、なので、結月さんにも、参加して、もらおうかと……」


東矢さんにも負けない自慢の拳に撃沈している黄泉人君の代わりに霧絵さんが説明してくれる。
ふむふむなるほど。私も三人に混じって何かしらの仮装をした後お菓子ねだりを、


「……はい?」


ふむふむなるほどなんていう言葉では片付けられなかった。
え、何?ソレドーユーイミ?what do you mean?


「あの、結月さんにも、仮装を、してもらおうと…」

「いやいやいやいやいやいやいやいや!?ちょ、どうしてそんな話になったんですか!?」

「無論、ハロウィンだからであります!」

「はいいい!?」

「....えと、さっき、みんなで、食堂に、いて。今日は、ハロウィン、なので、せっかくだから、仮装を、してみよう、という、話に、なりまして....」

「!と、ということは他の皆も仮装を…?」

「(コクリ)…後は、結月さん、だけなので」

「……」


なるほどそういうことか。
まぁ全員が仮装をするということなら大丈夫…なのだろうか?確かに私だけ参加しないというのも、寂しくないと言ったらそりゃあ嘘になるわけで。


「…ち、ちなみに衣装は?私、何も持ってないですけど……?」

「大丈夫、です。その、持ってきた、ので」


ガチャッと目の前でオープンされた霧絵さんのらしき旅行かばんには、超高校級のファッションデザイナーの片鱗が窺えるような数々の洋服、ヘアドレス、装飾品、その他もろもろ。
うわあ。この人すごいやる気だ……。


「…なので、その、着替えを…」

「あ、はい。……右殺君、黄泉人君が中に入らないように外で見ててもらえますか?あと、中は覗かないで下さいね。」

「む。承知したであります!」


ピッと綺麗な敬礼をした後、回復したらしい黄泉人君を連れて部屋を出ていく。


『…ねーねー、後でこっそり覗いてみようよー』

『残念ながら、結月殿の命により自分も黄泉人殿も中を覗けないのであります!』

『えぇーそんな堅いこと言わずにさぁー。ロリっ子のお着替えって中々見られないし』

『確かに兄妹でなければ即逮捕が目に浮かぶでありますな』

『ねーいいじゃんたったの2,3秒でしょー?それに僕らにはさ!男のマロンがあるもんね!』

『いや、自然な手つきで栗を取り出されても反応に困るのでありますが……』


未だに馬鹿をやっている黄泉人君はスルーして霧絵さんに手伝われながら仮装をすることにした。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ