短編、中編

□兄が兄なら弟も弟
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「さぁさぁ、ヒカル様どうぞあなた様のその目で拝見ください!」


運転手はそう言い静かに後部座席のドアを開けた。


「この方で間違いないはずです」


助手席に座っていた男がヒカルに手を差出し、恭しくエスコートしながら口添えする。
そしてヒカルは地に足をつけ丑嶋に目を向けた。

金主のババアと同じチャイナ服をまとった少女・・・しかしババアとは雲泥の差以上で少女が遥かに勝っている。
高級感あふれる大きな蝶と椿の描かれた真っ黒なチャイナドレス、それを纏う体はすらりと美しいボディーバランスを保ち、程よい肉ずきでその全てをさらに引き立たせる艶やかで豊かな黒髪、その髪に隠された顔は白く触り心地のよさそうな頬に、真っ赤なルージュを薄く引いた小さな唇、そして最も目を惹く長いまつげに秘められた大きくキラキラとした小鹿のような瞳・・・まさに完璧と言わざる負えない容姿をした少女が自分をじっと確認するかのように見つめてくる。


「・・・カオル兄?」


その美しい少女からヒカルに呼ばれていた自分の呼び名で呼ばれる。
この少女とヒカルが同一人物であるのだろうか・・・


「・・・ヒカルなのか?」


丑嶋がやっと絞り出せた言葉はそれだけだった。


「うん!」


丑嶋に向かってヒカルは可愛らしく頷くのだった。
その様子に丑嶋は、その姿は?今まで何をしていた?・・・気になる事はいくらでもあったがそれでもこの美しい少女の正体が自分の弟であることが理解できると二人は少しのぎこちなさを含み抱きしめあったのだった。


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しばらくの抱擁の後に残ったのは二人を囲む人々の動揺。
周りの人々は一様に思ったのだ、この美しい少女と見るからに堅気に見えない男の関係は?と。
しかしその疑問は空気の読めない男、柄崎によって一瞬で解決した。


「ヒカルって!?ヒカルって丑嶋社長の弟のあのヒカル!!?」


「うるせぇ/うるさーい」


柄崎の叫びは丑嶋兄弟によって一喝され、丑嶋からは拳骨を一発喰らう。


「それにしても本当にヒカルなんだよな?何でお前女の恰好してんだよ?」


「う〜ん、話せば長くなっちゃうんだけどーとりあえず一言でいうなら似合うから?」


確かにヒカルの言うとおり女装とは思えない完成度だが、丑嶋達には理解が出来なかったのだった。
そんな中、ヒカルが今しがた出てきたリムジンの窓が開き、男性が顔を出した。


『ヒカル、あなたの大事なお兄さんが見つかって良かったですね』


『フェイロン!有難う!!フェイロンが探してくれなかったら僕一生カオル兄に会えなかったよ』


『フフッ、ヒカルが喜ぶ顔が見れて私もうれしいですよ』


リムジンを挟んで話す飛龍とヒカル。
仲睦ましい光景だが彼らの話している言葉は中国語。
周りの人間にはどのような会話をしているのかすら理解できていない様子だ。


『それではヒカル。私はそろそろ仕事の時間なので失礼します。また何かあった際には連絡しますね』


『うん、ここまで送ってくれてありがとう。フェイロン大好き!』


そう言ったヒカルはリムジンから顔を出している飛龍の頬にチュッと可愛らしいリップ音をたてながらお別れのキスをした。
それから飛龍を乗せたリムジンは静かに走り出し、あっという間に見えなくなってしまう。
車が見えなくなるまで律儀に手を振り続けていたヒカルはゆっくりと丑嶋達の方を向き直り小さく笑った。


「改めて、ただいまカオル兄!」


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飛龍が去った後、丑嶋達は取りあえずヒカルとの再会に喜び、そしてこの路上にいる理由の取り立てを再開した。


「で、金払えないわけ?」


チラリと責務者に丑嶋が目を向けると蛇に睨まれた蛙の如く責務者はさっきまで美しい少女に見惚れていたのに、今は丑嶋に凄まれ一気に現実に引き戻された感覚に陥るのだった。


「ねぇ」


絶望の淵にいた責務者だったが、ヒカルの声に我にかえる。


「あなたカオル兄を困らせてるの?」


可愛らしく小首を傾げながら問うヒカル。
責務者はヒカルが先ほどからカオル兄と呼んでいる自らが借金をしている男、丑嶋の方に視線を向け、その後にヒカルに視線を戻す。
兄と言うからには二人が兄弟なのであろうことは理解できたが、しかし全くと言っていいほど二人の顔の造形は似ておらず困惑した様子の責務者。
だが本当にこの二人が兄弟であるのなら丑嶋に借金をして返さず、逃亡を図った自分は愚かにもこの少女にも迷惑をかけてしまったのではないか?と少女に初めて会ったというのに責務者の男はもう彼女、ヒカルを崇拝するかのような心情の中にいたのだった。


「す、すいません!か、返します!!返させていただきます!!!」


柄崎や丑嶋が何度言っても返そうとしなかった責務者。
しかしヒカルが言った途端、懐に手を入れクシャクシャになった紙幣をヒカルに渡すのだった。
その様子に丑嶋達は驚きを隠せなかったが、ヒカルの見かけに絆されたのだなと判断し、あれほど苦労した取り立てはすんなりと終わった。


「もう逃げ出そうなんて考えんじゃねぇぞ!!」


おずおずと帰路に向かう責務者に柄崎は脅しをかける。


「は、はいっ!次からは事務所の方に返しに行きますっ!!」


と、すっかりヒカルに手懐けられた様子の責務者は大きく返事をし、逃げるのにの字も出さないようになっていた。



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『』の内容は分かりやすくするために外国語という事にしました。
『』を使うのは英語、中国語、ロシア語が主です。
まぁ、あー外国語なんか話してんだな程度の認知で問題ないです。
補足ついでに夢主の着ていたチャイナドレスは女物の下に七分丈のズボン履いてる設定です。
・・・流石に男の娘といっても男ですから。

後半意味不明な内容になっちゃった・・・(-_-;)
いよいよ次は夢主の今までの生活など説明する話です。
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