黒子のバスケ(その他)

□【宮高】また作ってね
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「ごちそうさまでしたっ」
「お粗末さまでした」
今日は、宮地さんと月一のお泊りデートの日。待ち合わせなんかを電話で話している時に、俺が『温かい鍋が食べたいなぁ』なんて言ったら、今日部屋に入ったら鍋の準備ができていた。電話越しでは『鍋だぁ?めんどくせぇ』とか言っていたのに、なんだかんだで鍋の用意をしておいてくれていたらしい。しかも、俺の好きなキムチたっぷりの、特性キムチ鍋。パソコンの脇には、ネットで検索したらしいレシピをプリントアウトしたものが何枚か散乱しているけど、それについては気付かないふりをしてあげている。
「やっぱ冬はキムチ鍋っスねっ!また作ってくださいっ♪」
おいしかったし、何より宮地さんが作ってくれたのが嬉しいから、また食べたいって思った。上機嫌な笑顔を向けると、照れているのか目線をそらされてしまった。
「次は手伝えよな、こっちは手がキムチ臭くなって大変だったんだぞ」
文句をいいつつも、チラッと視線を向けたのはパソコン横に散乱している紙切れ。うん、またねだれば宮地さん特性キムチ鍋にありつけそうだ。
「それ、キムチ素手で触るからでしょ」
「鍋に入れるときに、白菜掴んだ勢いでキムチも掴んじまったんだよ」
手の臭いをかいで、嫌そうな表情を見せた。そうとう念入りに洗ったみたいだけど、完全には落ちなかったらしい。
「食べるとうまいのに、臭いが手につくと最悪だな」
本当に嫌そうに手を見ている。
「そんなに?」
テーブル越しに向き合って座っていたところから、宮地さんの隣に移動して、手を掴んで鼻に近づけた。
「まぁ、たしかに。これは頑固そうっスね」
「だろ?」
ぶっちゃてしまえば、本当のところ、においなんてどうでも良かった。宮地さんの手を見ていたらつい触れたくなってしまったんだ。鼻越しにうっすらと感じる体温をもっとちゃんと感じたくて、自分の頬のほうへ手を動かした。宮地さんの手、少しキムチのにおいがするけど、それでも温かくて心地いい。
「でもそんなの関係ないよ、宮地さんの手、俺好きだから」
手の平に、そっと口付けた。
「俺のために作ってくれてありがとうございました」
「はぁ?お前のためじゃねぇよ。冬だから辛いもん食いたかったんだよ」
「じゃ、そういうことにしとく」
頬で感じていた手を離し、宮地さんの方へ自分の体重を預けるようにして寄り添った。
「今度は俺も一緒に作るんで。だからまた鍋しましょうね」
月に一回のお泊りデート。夜に夕飯食べに行ったりはするけど、ゆっくり一緒にいれるのは月に一回のこの日だけ。一ヶ月ぶりに感じる宮地さんの温もりをたくさん感じたくて彼に寄り添った。
「来月も寒ければな」
せっかくいい雰囲気を作ったのに、宮地さんは俺を抱き寄せることも手を出すこともしない。返す言葉もそっけない。でもそのかわり、寄り添う俺を突き返すことはしない。ただただ、俺のことを受け止めてくれていた。この人とのそういう距離感がなんだか心地いいといつも思う。
「いつまでくっついてんだよ、動けねぇだろ」
「んー、もう少しだけ」
文句を言いつつも決して自分から俺のことを離そうとしない。
「別に、このまましちゃってもいいっスよ?」
本音と冗談を半分ずつ含んで様子をうかがうと、でこピンが返ってきた。
「寝言は寝て言え。ほら片付け、手伝えよ」
自分が立ったついでに、俺の腕も引っ張って立たせた。どうやら、片付けの手伝いは強制イベントらしい。俺としては、せっかくのいい雰囲気と一ヶ月ぶりの体温をもう少し堪能したかった。
「ちぇー、せっかく俺がいい雰囲気作ってあげたのに〜。据え膳食わぬはなんとやらですよ」
「お前いっぺんマジで寝るか?」
笑いながら拳をぎゅっと握って、殴る体勢。
「じゃ、宮地さん一緒に寝よっ」
「バカ言ってねぇで食器こっち運べっ!轢くぞっ!」
「はぁーい、仰せのままに」
文句を言う口調の割りに、俺が立たされたときに掴んだまま離さないでいる片手を振りほどくことは無かった。キッチンで不意打ちのキスをされるまで、ずっと。
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