黒バス以外

□【ハイキュー!!】いつもの帰り道
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「おら、好きなの選べよ」
レジ横のケースの前に来ると、少し悩んで研磨はケースを指差した。
「じゃ、おれピザまん」
「肉まんじゃなくていいのか」
「うん、肉まんも食べたいけどピザまんもおいしそうだから…期間限定チーズ増量ってかいてあるし…」
研磨の視線の先には、ピザまんのところに目立つ配色で貼られている『期間限定チーズ増量中!』のシール。
「今は、チーズいっぱい入ってるの食べたい、かな」
ぽそっと呟いてピザまんも見つめるものの、やはり肉まんにも未練があるのか、視線が2つの間を往復している。物欲しそう両方を見つめている姿を、つい甘やかしたくなってしまった。
「研磨、俺肉まんにするから半分やるよ」
「え、いいの?」
いつになくキラキラした目で振り返った。
「いいって、どっちも食いてぇんだろ?」
店員にピザまんと肉まんと伝え、二つ分の代金を俺が払いコンビニを後にした。外の寒さで、肉まんからはおいしそうに白い湯気がたっている。
「ほら、半分」
早速買った肉まんを半分に割ると、割れ目からも湯気がたちいいにおいがする。隣ではすでに研磨がかじりついていて、トマトソースと少しのチーズのにおいが漂っていた。
「うん、ありがと。」
半分の肉まんを受け取ると、自分のピザまんを片手に早速ほお張った。
「あたたかくておいひいよ、クロ」
冷める間もなく、あっという間に肉まんをたいらげてしまった。
「ごちそうさま。あ、おれのも一口食べる?」
まだ僅かに湯気ののぼるピザまんを差し出してきた。最初の一かじりしかしていなかったのか、まだ具まで食べていないようだ。
「一口だけかよ」
「うん、だってチーズ増量のピザまん食べたいもの」
おいしそうに自分のピザまんを見つめる研磨。チーズ増量という宣伝文句にまんまと引っかかっているのか、早く食べたそうな顔をしている。正直、貰いにくい。
「いいって。お前全部食え」
「あ、うん、ありがとう」
いつも通り表情は変わらないけど、でも、とても嬉しそうにピザまんをほお張っている。そんな研磨を横目に、俺は半分になって冷めかけている肉まんを一口で平らげた。普段無表情だけど、こういう時に見せる少しの表情の変化が嬉しくって、つい甘やかしてしまう自分には気付かないふりをした。
「たにかにチーズ増量してたかも。おいしかった」
早々に平らげ、敷き紙を俺の持つレジ袋へと入れた。まだ微かに鼻をくすぐるトマトソースの香り。
「今度クロもピザまん食べてみなよ、本当にチーズ増量してるから」
満足げに話す研磨。ん、口の端にトマトソースがついている。今日は肉まん奢ってやったんだ、少しくらいの見返りがあってもいいよな?外暗いし。
「研磨、こっち向け。ほら、ほっぺにソースついてる」
「え、ふかなきゃ」
「俺に任せとけって」
両手で研磨の顔を挟むようにして持ち上げ、トマトソースを舐め取った。
「ちょ、クロ、ここ、外…」
暗いけど、口調から察するに頬を赤くしていると思う。俺から触れると、いつもそうなるから。
「暗いから大丈夫だって。ま、肉まんのお礼ってことで、今度はこっち」
頬を伝って手を下ろしてあごに添えて、逆の手は腰にそっと回した。顎を持ち上げ、そっと触れるだけのキス。
「ん…、んっ」
吐息に混じるのはトマトソースの香り。
「たしかにお礼、いただきました♪」
「…お礼じゃない」
下を向いたまま、俺の腕をぎゅっと掴んだ。
「クロとの、キ、キスは好き、だから、これじゃお礼にならない…と思う」
「へぇ、じゃ、どういうお礼してくれるんだ?」
「…今日クロの家泊まっていく…」
「へぇ、そいつは楽しみだ」
腕を掴んでいた手が下に下がり、そっと俺の手を握った。

遠慮のない言動とか、甘やかすと嬉しそうにする表情とか、そういうの全部俺だけに向けられていると思うと、とても嬉しくなる。だから本当はお礼なんていらないんだけど。でも、俺だけ見ていて欲しくて、俺だけに気持ちを向けていて欲しくて、そんな研磨を見たくてつい手を出してしまう。握り返した手から伝わる体温は俺だけのものだって、実感したくて。

『あ、お母さん?今日クロの家に泊まっていくから』
隣を見ると、家に電話しているのだろう、携帯で話している研磨。もちろん片手は俺と繋いだまま。

そんな、いつもの相手といつもの帰り道での、いつもの光景。
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