黒子のバスケ(その他)

□【氷火】はんぶんこ
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10月最後の休日。地域の教会主催のハロウィーンイベントが毎年開催され、ボクは今年も仮装して仲間たちと街を練り歩く。でも今年は例年と少し違って、最近出来た弟分と一緒に参加することになった。彼にとっては初めてのハロウィーンイベントだから、楽しませてやろうと思って昨日から楽しみにしていた。親に作ってもらった黒いローブに魔法使いの帽子を被り、カボチャの形のかごを持って通い慣れた道を歩く。間もなく家の前で親とたたずむ赤毛の少年を見つけ、ボクは待ちきれなくて彼の元へ駆けていった。
「タイガっ!お待たせっ!」
片手を上げて駆け寄るとすぐにこちらに気付き、親に手を振ってから笑顔をこぼしながらこちらに駆け寄ってきた。
「タツヤっ!へぇ、魔女の格好か。似合ってるな」
「タイガも。耳がふわふわでかわいいな」
ボクは魔女だけど、タイガは茶色いシャツにお尻に尻尾のついた破れたズボン、頭にはふわふわの耳をつけていた。狼男かな?やんちゃな性格のタイガらしい、元気に動き回れそうな衣装がよく似合っていた。
「じゃ、行こうか。この地図の星のシールが貼ってある家に行くとお菓子が貰えるから、一緒に行こう。大丈夫、一緒にバスケやってる友達の家も多いから、みんな良くしてくれるよ」
タイガの手を取って地図を片手に歩き出す。タイガの家から一番近いのは角を曲がってすぐの赤い屋根の家。タイガも良く知っているバスケ仲間の家だ。
「あ、ここってあいつの家じゃね?へへっ、何貰えるのかな、チョコレートかな?キャンデーかなぁ?」
繋いだ方の手を上下に揺すりながら、顔なじみの友達の顔を思い浮かべて笑みをこぼし、何をもらえるのか楽しみでしょうがないといった表情で家の方を見ている。既に何人か玄関でお菓子を貰っているグループがいて、その様子から察するにこの家で貰えるお菓子は色合いや包み紙の雰囲気からしてキャンデーのようだ。
「タイガ、キャンデーみたいだよ。僕たちも貰いに行こう!」
「おうっ!かごいっぱいに貰おうな!」
タイガの手を引いて家まで駆けて行き、友達のお母さんにカゴを差し出すと、お決まりの文句を言って一掴みのキャンデーをカゴに入れてもらった。そして、ボクにだけもう一つ包みをくれた。
「タツヤくん今度お誕生日でしょ?だから、特別にクッキー焼いたのよ。良かったら食べてね」
「うん、ありがとう。おばさんの焼いたクッキー好きだからすっごく嬉しい」
バスケで遊んでいると、よく手作りのカップケーキやクッキーを持ってきて仲間たち全員に振舞ってくれるお母さんで、ボクはそのクッキーが特に好きだったからとても嬉しかった。
「じゃぁね、気をつけていってらっしゃい」
ニコニコと優しい微笑でボクらに手を振り、また次のグループが来るとキャンデーを一掴みカゴに入れていた。目線を隣のタイガに移すと、早速カゴにお菓子が入ったことで嬉しそうに笑っていた。
「なぁ、一個くらい舐めてもいいかな。こんだけあるんだから一個くらいいいよな?」
待ちきれないというようにカゴに手を入れてキャンデーを一つ取ると、許可を待たずに袋を破って口に含み、おいしそうに顔を綻ばせながらコロコロと口の中で転がしていた。
「本当にタイガは食いしん坊だな…。一個だけだぞ」
嬉しそうにキャンデーを舐めるタイガを見ると注意することも出来ず、一つだけと念を押してから再度手を繋いで次の目的地へ向かった。でも、その後も何個かキャンデーを食べていたのをボクは知っている。本人は隠れて食べてるつもりだったんだろうけど、膨らんだほっぺとかで丸分かり。そういう抜けてるところもかわいいんだけどね、なんて。

2軒目、3軒目と順調に巡るも、ほとんどが友達の家であるがためにイベントのお菓子と一緒に誕生日用にラッピングされたお菓子を貰ったため、ボクのカゴには溢れそうな量のお菓子が入っている。
「これじゃもうお菓子入らないな。タイガ、一回家に帰ってもいい?」
一回家に帰って親に中身を預けてから出直そうかと思い後ろを振り返ると、指をくわえながらボクと自分のカゴを見比べているタイガと目が合った。
「どうしたの、タイガ。疲れた?」
「タツヤいっぱいお菓子貰ってるの羨ましい…。手作りのお菓子うまそう…」
じっと穴が開くほどボクのカゴを見つめ、物欲しげな目線を向けている。
「オレもカップケーキとか食べたい…」
「タイガは食いしん坊だな、本当に。でも、ここで食べたらタイガ絶対地面に落とすだろ?それじゃせっかく作ってくれたのに申し訳ないよ。」
「落とさなければいいんだろ!一口くらいオレも食べたい…」
さっきから、バレてはいるがキャンデーやらチョコやらを隠れて食べていたにも関わらず、空腹を訴えるかのような目でボクを見つめて、何かを懸命に訴えている。
「もう、仕方ないな、タイガは」
ふうっとため息をつくと、タイガの手を引いて自分の家の方へ歩き出す。
「お母さんに言って半分ずつにしてもらおうか。家でお皿にのせて食べれば、タイガが地面に落とす心配も無いしね。」
「そんなに落してねぇよっ!その、たまに、ちょっと食べるのに夢中になっちゃうだけで…」
語尾が弱くなっていくタイガがおかしくてつい笑ってしまった。家に向かう間、タイガはずっとどのお菓子がおいしそうだとか、しばらくお菓子たくさん食べることができて嬉しいとか言っていた。僕はそれに相槌をうちながら家への道を歩いていく。
握り返された手の温かさが、とても嬉しかった。

手はかかるけど、素直で元気な弟。ずっと一緒にいられたらいいなって心からそう思ったんだ。

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