黒子のバスケ(その他)

□【赤緑】ひなたぼっこ
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僕のアパートは、春先の午後の日当たりがいい。今日もいい天気で、ちょうど居間のあたりに太陽が差し込んで心地いい。僕がそうなのだから、この猫はもっと心地いいのだろう。僕の膝に頭を乗せてまどろんでいる最中だ。
「真太郎、眠いのか?今にも寝そうな顔だよ?」
「んー…。眠くはない…が…、気持ちはいいな」
「それを世間では眠いというんだよ」
くすくすと笑って、緑色の髪とやわらかい耳を撫でた。耳に手が触れるとぴくぴくと動き、手を離すと、また次触れるのを待っている。それがおもしろくて、耳を触ったり離したりを繰り返しているうちに、僕の膝からかすかに聞こえる寝息。
「眠くないって言ってたのは、誰だったかな」
くすりと笑い、飽きずに手を耳に触れさせると、またぴくぴくと動くものの膝の上の寝息は変わらない。
「僕の膝の上で無防備に寝るとはね…。イタズラして欲しいと言っているようなものだな」
膝の上の頭をカーペット上に降ろし仰向けに寝かせると、僅かに顔を歪ませるものの、またすぐ眠ってしまった。そうとうここが気持ち良いのだろうか。仰向けになっている真太郎にまたがり、顔の両脇に手をついた。いとも簡単に僕に組み敷かれる真太郎。愛おしい、本当に愛おしい。
「ほら、簡単に僕に押し倒されてるよ。無防備過ぎて他のやつにもされないか、逆に心配になってくる」
猫にするようにのどを指でくすぐると、気持ちよさそうに目を細めた。
「んぅ…ん…あか、し…?」
目が覚めたのか、薄く目を開いて僕の名を呼ぶ声。
「なんだい、真太郎。王子様のキスを待たずにお目覚めかな」
「き、す…?」
寝ぼけているのか、僕の言葉をゆっくり反復して。
「そう、キス。いつも僕がしてあげているだろう?」
のどを指でくすぐりながら微笑むと、やはり気持ちよさそうに目を細めた。その無防備な表情と僕の指の動きに合わせて時折ピクピクと動く耳が、加虐心を煽るとも知らずに。
「真太郎、今はまだ昼だ。寝るには早いんじゃないか?」
のどを撫でている間にまた眠ってしまったらしい真太郎にイタズラをしようと、真太郎の耳にそっと息を吹きかけた。
「…っ!なっ!?」
突然のことにビックリしたのだろう。今まで寝ていたとは思えない俊敏な動きで起き上がり、床に押し倒す体勢だった僕に勢いよく頭突きを食らわせた。
「っく…、あっ…赤司っ?すまないっ…」
「いや、構わないよ…。こうなることを予測できたのに行動に移した僕が悪い」
額を押さえながら、心配そうにこちらを見る真太郎を落ち着かせる言葉をかける。まだ目の前がチカチカするが、そのうち直るだろう。
「この季節の陽だまりは気持ちいいからね、眠くなるのも分かる。が、真太郎が寝てしまっては僕が退屈だろう?せっかく二人きりなんだ、一緒に同じ時を過ごしたいじゃないか」
腕の間の顔を見つめると、ぶつかった箇所であろう、真太郎の額の真ん中が赤くなっている。そこに優しく手を這わせると、また気持ち良さそうに目を細めた。しばらく撫で続けるとゆっくりと目を開け手を伸ばし、僕の額にそっと指で触れた。
「すまなかったな、痛かっただろう。赤くなっているのだよ」
まだ鈍く痛みが残るものの、自分以外の手で額を触れられるのはたしかに気持ち良いかもしれない。僕も思わず目を細めて、真太郎の手の温度を感じることにした。眠いからだろうか、手から伝わる体温がホカホカと温かい。
「日差しと真太郎の手があれば、僕はすぐにでも寝れそうだな」
「その言葉、そのまま赤司に返そう」
ふんわりと微笑んで、しばらく二人で見つめ合っていた。こういうのんびりした時間も悪くないが、せっかくのよい天気なら外へ出かけたい。
「真太郎、外へ散歩に行こうか。眠気覚ましにちょうど良いと思うんだが」
玄関のほうへ視線を向けて外へ出ようと意思表示すると、嬉しそうにしっぽを動かした。
「散歩?あぁ、そうだな。近くの公園の桜が散ってしまう前にまた見に行きたいと思っていたのだよ」
あまり表には出さないが、目としっぽの動きで嬉しいのだとよく分かる。耳もピクピクとよく動き、外へ行くのを楽しみにしているようだ。
「そうか、では早速公園に行くとしよう」
カーペットに押し倒したままだった体勢から起き上がり、真太郎に手を差し出して起こしてやると、ぎゅっと僕の手を握り返した。
「手など繋がなくても、お前は迷子にならないだろう?」
でも、どちらからも手を離すことなく玄関に向かった。僕が片手で靴箱の上に置いてある首輪を手に取ると、真太郎は繋いだ手を離して、僕が首に巻きやすいように少し屈んだ。
「えらいね。迷子になることは無くても、飼い主には猫に付ける義務があるからね」
首の後ろのボタンを留めると、それぞれの靴を履き、僕が手を差し出すと、真太郎もそっと手を差し出した。玄関を出ると、春の風が心地よく吹いていて、外へ出かけるのにちょうどいい気候だ。
「気持ち良いね。桜は散り始めているかもしれないけど、まだ楽しめそうだし。さぁ行こうか」
半歩後ろをとことことついてくる真太郎。公園は家から近いためあっという間に到着し、桜の木がよく見えるベンチに座って行き交う人と景色を眺めていた。
「これでは、部屋から出たい意味が無いな。場所が変わっただけで、結局二人でくっついている。悪くは無いが」
風を心地よく感じながら隣の真太郎に声をかけると、またも眠いのか僕の肩にもたれていた。しっぽも時折虫を避ける時にしか動かず、この猫は本当に日差しに弱いんだなと苦笑しつつ頬を寄せた。
「その首輪を付けている限り、真太郎は僕の猫なんだ。ずっと僕の傍にいさせてあげよう。」
耳が僕の顔にあたり、時折ピクピクと動くためとてもくすぐったい。それでも僕は離さない。ずっと一緒だ、ずっと…。
「相変わらず無防備だな。そして、せっかくの桜だ、見ないと勿体無くないかな?」
顎に手を添えて下を向かせると、そのままキスをした。真太郎のまつげが目の前で揺れている。
「何をしている…、おかげで目が覚めたのだよ…」
「王子様のキスだからね。続きは夜にでも」

目の前の表情はむすっとしていたが、視界の隅に入るしっぽは嬉しそうに動いていた。

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