黒子のバスケ(その他)

□【高緑】君と出会ったこの場所
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授業の合間の休み時間。高尾が教室の扉のところで隣のクラスの女子と話している。2回ほど言葉を交わして、女子はすぐにどこかへ行ってしまった。会話というにはあまりに短い時間だったが、その間ずっと高尾のことを見ていた俺には少し長く感じた。何を話していたのか、気にならないといえば嘘になる。
「なぁ、緑間ぁ」
教室の扉から戻り、俺の前の席に座って少し疲れたような声を出した。さっきの光景がなんとなく不愉快で顔を合わせる気になれず、読んでいた本からは顔を上げなかった。
「隣のクラスの女子から、昼休みに中庭に呼び出されるってどんな用だと思う?」
「また呼び出しか。先週も6組の女子に呼び出されていたな」
本の文字を追っていた視界の隅に、さらりとした黒髪が映った。視線をそちらへ移すと、高尾が机に突っ伏してしなだれていた。
「行かないと駄目かな、やっぱ」
いつもうるさいくらいに明るいこいつにしては、珍しく沈んだ口調だった。気になり顔を上げると、突っ伏した体勢のまま、俺のことを見ている高尾と視線がぶつかった。
「緑間、俺の代わりに行ってもいいんじゃね?お前モテるし」
「呼び出されたのはお前だろう」
「んー、まぁ、そうだけど」
あいまいな返事を返しつつも、俺とは目線を合わせたままだった。なんだ、こいつは。
「なぜ俺を見る。お前の好きにすればいいだろう。俺には関係ない」
「行ってもいいの?」
「なぜそれを俺に聞く」
「友達との間でも、かわいいって評判の子なんだけど」
「…何が言いたい。好きにすればいいだろう」

「だって俺、好きなやついるし」

一瞬、頭が真っ白になった。
「…ならば、なおさらだ。自分がどうしたいかくらい自分で考えろ。俺は関係ない」
時計を見ると、もうすぐ次の授業が始まる時間だった。邪魔だと言わんばかりに高尾の目の前に教科書を出し、無言で席へ戻れと伝えた。
「あれ、次って英語?やべ、俺今日当てられるよ」
俺の無言の圧力が伝わっているのかいないのか、高尾はいつもの調子で言うと自分の席へと戻っていった。まもなくチャイムが鳴り、先生が入ってきた。だが、授業中頭を支配したのはさっきの高尾の言葉。

『だって俺、好きなやついるし』

別におかしいことではない。むしろ当然だ、男子高校生なんだから。でも、なんでだろうか。あの言葉が嘘ならいいのにと思っている自分がいる。そして、高尾は昼休みに彼女の元へ行くのだろうか。行って欲しくないと思うこの感情はなんなのか。そんなことを考えていて、ふと我に返り無意識に高尾の方を見ると、教科書に隠れて居眠りをしていた。自分はこんなにもお前の一言で悩まされているのに当の本人は居眠りとは。
「なんなのだよ、あいつは…」
しばらくして、居眠りなどとっくに見抜いていた教師に当てられて焦っている様子が見れた。
「いや、なんてことはない。いつもの光景か…」
あいつのことが理解できないなど、今に始まったことではない。いつものことだった。だから、多分…。いつもと違うのは自分の方。今日の昼のことが気になって仕方ない、自分の方だ。

終業のチャイムが鳴ると、先生の話も聞かずに教室がざわめき始めた。教師も特に文句は言わず、話を終えるとすぐに教室を後にした。待ちに待った昼の休み時間だ。
カバンから弁当箱を出そうとすると、目の前に誰かやってきた。首を上げずとも分かる気配に、心臓が高鳴る。ついに来てしまった昼休み。
「真ちゃん俺」
「呼び出しに応えるのだろう?俺の許可など要らないだろう」
苛立ちを隠さずに言い放ち上を向くと、予想通りの人物、高尾が立っていた。
「相手の用件など知らないが、俺には関係ない。勝手に行け」
朝、教室で高尾を呼び出したという女子生徒。複数の男子生徒に好意を持たれていることは、俺でも知っていることだ。そんな子からの呼び出しだ。高尾が好きという相手が誰なのかは知らないが、きっとまんざらではないのだろう。だから、調子に乗ってこうして俺に話してくるのだ。俺には、関係の無いことなのに…。
「…真ちゃんがここまで不機嫌になるのは予想外だったわ…」
「…機嫌など悪くない」
「何言ってんだよ、朝に俺が呼び出されたって言ってからめっちゃ不機嫌じゃねぇかよ」
困ったように頭を掻くが、お前が困ろうが何しようが俺は動かない。
「…気が進まないかも知んないけどさ、中庭、一緒に来てくれね?」
「なぜだ、俺にお前とそこへ行く理由など無い。さっさと行け、バカが」
「あーもう、真ちゃんご機嫌斜めだ…」
諦めたように溜息をつき、言葉を探すように目線をそらした。
「あのさぁ、実はさ…」
高尾にしては珍しい自信のなさそうな表情に、一瞬心がひるんだ。
「女子からの呼び出しっての、あれ嘘だったんだ。あの子さ、今日の委員会の予定を伝えに来ただけなんだよな。つか、あの子彼氏いるし」
「…どういうことなのだよ」
「うん、それも含めて説明するからさ、俺と中庭…来てくれね?」
いつもと違う自信の無さそうな口調に調子がくずれた俺は、高尾と共に教室を出た。
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