黒子のバスケ(黒子受)

□【虹黒】happy birthday TETSUYA
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今仕事終わった。あと10分くらいでいつもんとこ着くから』
『はい、待っていますね。急がなくて平気ですから、ゆっくり来てください』

通話終了のアイコンを触って電話を切った。スピーカー越しに彼の声と一緒に電車が入ってくる音がしたから、その電車に乗ってこちらに向かうのだろう。ちょうど乗り換えを含めて10分の距離。
本当は今頃の時間に待ち合わせるはずだったが、時期的に彼のメーカーは忙しいらしく、最近は残業が続いていた。お互い社会人である以上その辺は仕方の無いことだから特に責めるつもりはない。けど、メールが来るのが遅かったり電話越しの声が疲れている色を漂わせているため、少し寂しいような気はしてしまう。でも、忙しくてもこうして時間を作って会いに来てくれる彼のことが心から好きだった。

今朝のおは朝でキャスターのお姉さんが今年一番の冷え込みと言っていたけど、それは見事に的中して朝から冷え込みが厳しく、駅前で待つ僕の吐息は白くて、じっとしていると足から冷えてくる。なるべく駅中のショッピングモールに続く通路の近くで街中の冷気に当たらないよう気をつけていたがやはり寒いものは寒い。時計と次々に変わる電車の案内とを交互に見続けてジャスト10分後。改札から駆け足で出てくる人影。一目散にこちらに駆けてきた彼を見つけ、ボクの心臓は高鳴っていった。
「悪い、遅くなったな!つーか、コーヒー屋にでも入ってれば良かったろ、バカ」
息を切らしてボクの目の前に来ると、すぐに両手で頬を包み込んでくれて顔を覗かれた。…近いです。イケメンの顔が至近距離にあるのは目に毒です。
「ったく、顔冷えてるじゃねぇか。ほら、行くぞ」
何の違和感も無く自然とボクの手を取ると、その手を引いて半歩先を歩く彼。電車の中は温かかったのだろうか、彼の手は素手なのにほかほかしていてボクの手袋越しに体温が伝わるような気がして、その温もりにすがるようにぎゅっと握り返した。手を引かれて入ったショッピングモール内は温かく、彼の温もりと合わさって冷えた体を解していくような感じさえした。
「えっと、ここの8階でしたっけ。夜景が綺麗だとテレビで紹介されているのを見ました」
「そうそう、人気の店でさ。平日でも席によっては予約が必要なんだとさ」
お互い手は握ったままエレベーターに乗り、最上階のレストランを目指す。少し自慢げに『今夜はちゃんと予約してあるぜ!』と話すので、感謝の意味をこめてぎゅっと手を握り返し小さく『ありがとうございます』と呟いた。

最上階に着くと店に入り案内された席は窓際の海沿いの夜景が一望できる場所だった。
「わぁ…すごいです。綺麗ですね」
「だろ?窓際の席は平日でも予約が難しいんだと。今日のために一ヶ月前から予約したからな、たくさん夜景見ておけよ?」
「はい、食事と一緒に楽しみたいと思います」
間もなくして店員がメニューを持ってくると、コース料理の店であるためメインの料理とデザートを選び、お酒は彼が頼んだものを貰うことにして任せて注文を済ますと、テーブルにはシャンパンが置かれた。なぜかボクのグラスの持つ部分にリボンがついていて、そこに『happy birthday TETSUYA』と英語で印刷されていた。
「誕生日って言ったらサービスで付けてくれた」
「…ありがとうございます。なんだか飲むのが勿体なく感じてしまいますね」
「逆だろ、飲まないと勿体ない。今日は特に」
グラスを持ってボクのことをじっと見る虹村先輩。ボクもリボンをくしゃくしゃにしないように気をつけながらグラスを持つとグラスを触れ合わせた。質の良いシャンパングラスはカチンと綺麗な音を立てて黄金色のシャンパンを惹きたてていた。
「誕生日おめでとう、テツヤ」
「ありがとうございます、虹村先輩」
店内の薄暗い照明と夜景に照らされながらシャンパングラスを傾ける相手の姿を見ることが出来ただけでも十分で、このまま時が止まればいいのになんて思った。
「ん、うまいな、さすがだ。…飲まないならもらうぜ?お前酒弱いもんな」
ボクが彼に見とれている間にあっという間にグラスのシャンパンを空にするとチビチビと飲んでいたボクを見て手を差し出された。
「はい…。シャンパンはとてもおいしいんですけど、今酔っ払ったら勿体ないので。はい、どうぞ」
グラスからリボンを解くとグラスを手渡した。リボンに印刷された名前を改めて見るとなんだかとても嬉しく自然と顔が緩んでしまい、丁寧にたたんでカバンに入れた。
「それくらいで満足されると、有り難いというか簡単というか…」
シャンパンのグラスを空けウェイターに返すと、グラスに注がれたワインを飲みながら苦笑する彼と目が合った。でも仕方ない、些細なことでも嬉しいものは嬉しいんだから。
「あなたがしてくれることは何でも嬉しいです。リボン大事にしますね」
「それも大事にして欲しいけど…。こっちの方を主に大事にしてくれたらオレとしては嬉しいかな」
「はい?」
カバンから取り出されたのは、どう考えてもプレゼント用にラッピングされた包みだった。目の前に差し出され条件反射的に受け取ると、自分へのプレゼントであろうそれに目を瞬かせた。
「開けて…いいんですか?」
「お前以外に誰が開けるんだよ」
照れくさいのだろうか、頬杖をついて窓の方を眺めている相手に苦笑すると、丁寧にテープを剥して包みを開けると、彼がいつもつけているのと同じものの色違いのマフラーが入っていた。
「これ、先輩がつけてるやつの色違いですよね?」
入っていたマフラーを拡げ、相手のカバンの上に丸められているマフラーと何回も見比べ、タグや生地が同じであるため間違いないと分かるといっきに顔が熱くなった。
「お揃い、ですか?」
「色違い。前触り心地いいって言ってただろ?だから、さ…。まぁ、これ並のマフラーより温かいから通勤のときにでもつけてろよ。」
窓の外へ顔を向けたまま、目線だけこちらに向けて返事をする先輩。よほど照れくさいらしい。
「デートのときも、ですね。お揃いですから、デートの時には毎回つけてきますね」
マフラーを丁寧にたたんで包みに戻しながらクスクスと微笑んでいると、彼からの必死な訂正が聞こえた。
「色違い!お揃いって言うな!」

間もなくして前菜から運ばれてきて、食事もワインもおいしくて、夜景も綺麗で、とても素敵な誕生日を過ごした。でも、どんなにおいしい食事も素敵なプレゼントも、彼がいるから嬉しいんだと思います。

素敵な思い出をいつもありがとうございます。
これからもよろしくおねがいします。

なんて言ったら、あなたはまた窓の外を見てしまうでしょうか?

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