黒子のバスケ(黒子受)

□【黄黒】夏祭り
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監督と赤司くんのはからいで、今日は早々に練習を切り上げることになった。試験も終わり間もなく始まる地獄の夏休みを前に、少しの息抜きをということだと赤司くんがミーティングで言っていた。そして、今日は地元の夏祭りの日。僕は今日という日をとても楽しみにしていた。なぜなら、黄瀬くんと二人で行こうと約束をしていたから。練習が終わり早々に着替えると急いで家に帰り、親に浴衣を着せてもらい、黄瀬くんと待ち合わせる駅へと向かった。日頃履き慣れない下駄に苦戦しながらも、はやる気持ちは抑えることができず、早歩きで駅へと向かうと遠目でも目立つ長身の彼がいた。が、予想していた彼とは少し違っていた。
「黄瀬、くん…。それ…」
「あ、黒子っちも浴衣なんスね!へへ、どうスか?これこの前の撮影の時に貰ったんスよ」
僕の声に気付いてこちらに振り向くと、いつもの笑顔を僕に向けて、その場でくるりと一周回って見せた。
「黄瀬くんの浴衣…」
なんと、駅前で待っている黄瀬くんも浴衣を着ていた。スタイルの良さからとても様になっているその姿に一気に顔が赤くなるのを感じて、思わず目をそらした。
「似合いますね…。さすがというかなんと言うか…」
「へへっ、そっスか?俺に似合うからって言われて何となく貰ったんスけど…。良かった、黒子っちに気に入ってもらえて」
心から嬉しそうな笑顔を向けると僕の手をそっと握り、指を絡めると賑わう露店の方へと歩き出した。
「黒子っち何食べたいッスか?りんご飴?かき氷?俺、チョコバナナ食べたいかも」
くじの景品らしいビニールの人形や、焼きそばを持った人達を器用に避けて歩きながら人混みを進み、チョコバナナの店の前で足を止めた。
「いいですね、チョコバナナ。僕カラースプレーをかけてあるやつがいいです」
「これ?へへ、じゃ、俺この黄色いのにする」
水色のチョコにカラースプレーのまぶされたチョコバナナを指差すと、その横に並んでいた黄色いチョコにコアラのチョコ菓子のついたチョコバナナを取り、店主に代金を払うと持っててと僕に渡した。
「黒子っちの分は、俺がじゃんけんで買って獲得してみせるっス!」
「はい…?あぁ、これですか。ふふ、頑張ってください」
『じゃんけんに勝ったらもう一本』と値札代わりのダンボールに書いてあり、やる気に満ち溢れた黄瀬くんに笑顔を返すと、店主との勝負の行方を後ろから見守ることにした。
「じゃーんけーんぽーん!っよし、勝った!もう一本貰うっスね!」
嬉しそうに水色のチョコのかかったチョコバナナを取ると、僕の持っていた黄色いものと交換で僕に握らせてくれた。ニコニコと笑う黄瀬くんの反応に、店主さんも顔を綻ばせていたようだった。
「…ありがとう、ございます…。本当に勝つなんて…、黄瀬くんさすがです」
「だって、黒子っちのためだもん!惚れ直した?」
「惚れ直す余地なんてありません、もっと好きになりました」
チョコバナナを一口かじりながら、指を絡めなおし寄り添うようにくっついた。黄瀬くんのくれたチョコバナナ。それだけでこの上なく幸せで、つい甘えたくなってしまった。
「コアラさん、食べちゃいますよ?」
僕の一言で顔を真っ赤にして動かなくなってしまった黄瀬くんにクスクスと笑うと、少し背伸びをして黄瀬くんのもつチョコバナナについているコアラのチョコ菓子を食べた。
「…もー…、不意打ち過ぎ…。どーぞっス、明日紫っちのお菓子から貰うからいいよ」
ふいっと顔をそむける黄瀬くん。ふふ、耳まで真っ赤にしてるのは見えなかったことにしておきますね。
「そういえば…あと少しで花火始まるっスね。俺、姉ちゃんにいい場所教えてもらったんスよ、一緒に来ない?」
話題をそらせようとしたのだろう、腕時計を見ると僕の手を引いて人気の少ない裏道へと入っていった。
「どこ行くんですか?花火って海岸で上がるんですよね?」
手を引かれるままついていくが、海岸どころか住宅街の坂道を上り海から遠のいていく。しかも、慣れない下駄で歩いているため、親指のあたりが擦れてきた。
「あ、あの、黄瀬くん、すいませんもう少しゆっくり…」
「ここの公園、海岸がよく見えるから花火見るのに良いって姉ちゃんが言ってた。去年彼氏と来たって自慢話されたからよく覚えてて…」
そこは、何の変哲も無い公園で、この辺の住人はみんな露店に遊びに出ているか、親戚と家に集まっているかのどちらかのようで、公園には僕と黄瀬くんの二人きり。低いベンチに僕を座らせると、巾着から絆創膏を出して、僕の足に貼ってくれた。
「母さんに持たされてさ。まさかここで役に立つとは思わなかったんスけど…、。これで少しはマシでしょ?」
ニコリと微笑むと隣に座り、僕の手に黄瀬くんの手が重なった。
「あと…花火見る前に…。その…、そろそろいいかなって…」
「そろそろ…?何を…」
するんですか?と言いかけて、その後の言葉を紡ぐことが出来なかった。

僕の唇に、黄瀬くんの唇が重なったから。

「付き合ってもうすぐ一ヶ月だから…、そろそろキスしてもいいかなって…。嫌だった?姉ちゃんが彼氏と初チューしたって散々自慢してきたからさ、俺も…とか…思ったりして…」
唇が離れると、少し赤らんだ顔で不安げな表情をする黄瀬くん。
…僕は…。
「嫌なわけ…ないじゃないですか…。その…僕は初めてだったので、少し戸惑っていますが…。う、嬉しい、です…」
心臓がドキドキとうるさいくらいに跳ねて、顔も熱くて黄瀬くんのことなどまともにみることができなかったが、なんとか言葉を紡ぐと、黄瀬くんの浴衣の袖をきゅっと摘まんだ。
「もう一回…したい…です…」
「うん、俺も…。へへ、黒子っち大好き」

僕もです。
その言葉は打ち上げられた花火にかき消されたけど、きっと伝わっているはず。

大好きな君との、夏の思い出。

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