黒子のバスケ(黒子受)

□【黄黒】お揃いのクマさん
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時間ぴったり。待ち合わせの駅で電車を降りると、時刻表の傍に設置された時計はそう示していた。駅前で待っているであろう黄瀬くんを想像するとそれだけで心臓が高鳴ってしまい、自然と改札まで歩く歩調も早くなっていく。目深に被ったニット帽と黒縁の伊達メガネを身につけて、今日も柱に寄りかかって待っているんだ。僕のために待っていてくれる黄瀬くん。普段、待ち合わせには余裕を持って行くけれど、黄瀬くんとの待ち合わせは別。待ち合わせ場所に着いて声をかけると、帽子を少し上げて嬉しそうに笑って迎えてくれるその瞬間が好きだった。だから、僕は時間ぴったりに行く。彼もそれを分かっているのだろうか、たまに遅刻することもあるけど大抵は先に来て待っていてくれる。今日も、待ち合わせ場所についたという旨のメールがかわいい顔文字つきできたばかりだ。あと数秒、改札を抜けて遠目でも分かる長身の彼に向かって小走りに駆け寄る。
「お待たせしました、黄瀬くん」
顔を覗き込むと、帽子を少し上げて綺麗な微笑みを返してくれた。
「こんにちは、黒子っち」
「こんにちは、黄瀬くん」
黄瀬くんはどこに行っても目立ってしまうので、二人で会うときは帽子と眼鏡をつけてもらっている。せっかくの休日デートなんだから誰にも邪魔されたくないし、誰にも黄瀬くんを渡したくない。デートの日だけは、誰のものでもない僕だけの黄瀬くんでいてほしいから。
「今日は黄瀬くんが行きたい所があるということですが、どこへ行くんですか?」
今日のデートへのお誘いメールにたしかそのようなことがかいてあったため、どこへ行くのだろうかとずっと楽しみにしていた。
「今日はね、黒子っちと一緒に見たいものがあるから、俺に付き合って欲しいっス」
黄瀬くんは自然に僕の手を取ると、そのまま手を引いて近くのショッピングモールへと歩き出した。つながれた手から伝わる温もりと、一緒という言葉に自然と心が躍る。
「一緒…ですか?なんでしょう」
「内緒」
僕のほうへ振り向くと、にっこり笑ってまっすぐ目的地へ歩いていく。

しばらく手を引かれて歩いて到着したのは、かわいい人形や生活用品の並ぶ雑貨屋さん。自分一人では一生縁が無いであろう店に、黄瀬くんは僕の手を引いてなんの躊躇いもなく入っていく。
「あの、黄瀬くん、何を…」
店内を何かを探すように歩くと目的のものが見つかったのか、売り物のかわいいストラップが大量にかかっている壁の前で立ち止まり、僕の手を離した。
「あのね、俺これを黒子っちと買いたいなって思ってさ」
ストラップのコーナーで何かを探すように目線を動かし、すっと手に取ったのはクマのマスコットのついたストラップだった。
「ストラップですか?また随分かわいらしいですね…」
「そうなんスけど、ほらここよく見て。誕生日はいってるの」
僕にクマの背中を見せると、そこにはたしかに英語で誕生日が入っていた。黄瀬くんが手にとったのは、勿論僕の誕生日のクマで、棚から別のクマを取ると、黄瀬くんの誕生日がかいてある背中を嬉しそうにこちらに向けて、2つとも僕に手渡してくれた。棚にかかっている他のクマと見比べると、クマと背中の誕生日のところの色は色々な組み合わせがあるらしく、もしかしたら、同じ色の組み合わせは無いのかもしれない。一つ一つが特別なもののようだ。
「そうですね、とても良いと思います。これならカバンにつけて毎日持ち歩けますし」
早速今日からつけようと思うと楽しみになり、自然と笑顔がこぼれた。
「じゃ、これ俺からプレゼントさせて?それで、これいつも持ち歩いて、離れていても俺のこと思い出してほしいっス」
綺麗な笑顔で微笑むと、クマを僕の手から抜いてレジの方へ向かった。まもなく戻ってくると、かわいいシールとリボンでラッピングされている袋を僕に差し出した。
「これ、わざわざラッピングしてもらったんですか…?」。
「うん、だって黒子っちにあげるのに、会計済みのテープだけじゃ味気ないでしょ?男の子用って言うの忘れてて、かわいらしくなっちゃったけど」
見るからに女性へのプレゼント用にラッピングされている外見に少し驚くが、黄瀬くんの思いの詰まった特別なプレゼントのような気がして嬉しくなり、丁寧に受け取った。開けるのが勿体ないので、家に帰ってから開けよう。
「ありがとうございます…。大切にします」
「うん、俺も大事にする」
黄瀬くんは自分の分はそのまま受け取ったようで、すでに自分のカバンのチャックに付けていた。黄瀬くんとお揃いのストラップなんて嬉しいなと思って見ていると、何かがおかしいことに気付いた。よく見ると、黄瀬くんは僕の誕生日がかかれたクマをつけている。つまり、僕の手にあるのは黄瀬くんの誕生日のクマということ。黄瀬くんは意外とドジなところもあるから、間違えてしまったのだろうか。
「あの、黄瀬くん?僕の誕生日のクマさん付けていますが、いいんですか?」
んー?と自分のカバンを見ると、クマをチャックからとって大事そうに頬ずりをしてこちらに笑いかけた。
「うん、これでいいの。だって、相手のクマ持ってた方が恋人っぽいでしょ?」
ねーとクマに向かって笑いかけて、また大事そうに頬ずりをすると落とさないようにカバンのチャックにぶら下げた。僕はその様子を見ながら、顔が赤くなるのを感じて思わず下を向いてしまった。
「そうですか…。女子高生みたいですね黄瀬くんは…」
「だって、友達が彼女の誕生日のクマだって言って付けてて、俺も真似してみたくなったんスよ。それにね」
黄瀬くんを上目使いで見ると、すっと耳元に近づき小声で囁いた。
「恋人がいるって実感できて、持っているだけで嬉しいんスよ」
ね?と言いながら顔を上げると、顔を真っ赤にして固まっている僕の手を引いて店から出た。

その日一日、黄瀬くんはいつも以上にご機嫌で、僕の誕生日の入っているクマをことあるごとに眺めては、ヘラヘラと笑っていた。
明日からまたしばらく会えないけれど、次会うときはいつものニット帽と黒縁メガネに、クマのマスコットも付けて駅前で待っているんだろうなと思うと胸が高鳴る。そして、黄瀬くんに駆け寄る僕にも、同じクマのマスコットがついている。

次会えるのはいつかななんて考えながら、家に帰ったら袋をあけてクマをカバンに付けようと思った。夜に電話をするのも忘れずに。
だって僕と黄瀬くんは恋人なんだから。

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