黒子のバスケ(黒子受)

□【黄黒】Aデートの待ち合わせ
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いつも通りに授業を受け、いつも通りにホームルームを終えた。
そして、いつもと違うこれからの予定に自然と顔が緩むのが分かる。今日は久しぶりに黄瀬くんと会うことになっていて、いわゆる放課後デートの日。昨日電話で話してから、どれだけ待ちわびたことだろう。放課後が待ち遠しくてもう何回見たか分からない腕時計をちらりと見る。
「今出ると、待ち合わせより少し早く着きますね」
電車や徒歩の時間を考えても10分程は余裕がある。せっかくの本屋前での待ち合わせ。いつものように黄瀬くんがモデルをしているファッション雑誌を立ち読みしようかな。普段の犬のような人懐っこい笑顔も好きだけど、モデルをしている黄瀬くんはやはりかっこいい。仕事だと分かっていても、普段は見せないクールな表情に惹かれてしまう。
「黄瀬くん…」
綺麗な笑顔。節目がちな表情。悪戯っぽい目線。どんな表情でも愛おしく感じてしまって、雑誌を見るたびに彼に惹かれていく。今回みたいに、しばらく会えない時は尚更愛おしく感じてしまうし、会えない寂しさを紛らわすために眺めていたこともあった。早く会いたい気持ちも相まって、彼への思いは募るばかり。
「早く会いたいですね。」
再び時計を確認。うん、まだ時間に余裕はある。急ぐ必要は無いのに、つい早足で学校を後にした。

待ち合わせの駅に到着し、目印の本屋へ立ち寄る。文学小説以外はあまり読まないけれど、いつも見ている黄瀬くんの出ている雑誌なら一目で見つけることが出来る。あ、やっぱりここにあった。今日発売の他の雑誌と一緒になって並べられている。
傍から見れば、ファッション雑誌を立ち読みする男子高校生に見えるんだろうし、実際その通りなんだけれども。最新のファッションではなく、いつもと違う表情を見せる恋人を見たくてなんて。しかも、そんな恋人を見て愛おしく思っているだなんて。そんなこと、本人に言ったことはない。恥ずかしいから言えるわけも無い。むしろ、言うと調子に乗るに決まっている。だから言わない。まぁ、彼のことだから言ってあげるととても喜ぶのだろうけど。
そんなことを考えながらページをめくる。
数ページおきに、様々な表情を見せる彼。
今日はデートの約束だから会えるって決まっているのに。電話で話すくらいならほぼ毎日しているのに。あぁ、ダメだ。雑誌での黄瀬くんを眺めているから、今黄瀬くんに会いたくてたまらない。愛おしくてたまらない。一分一秒、早く会いたい。一緒にいたい。本物の彼の、温かい温もりを感じたい。触れ合っていたい。
「黄瀬くん…」
つい雑誌に夢中になって、無意識に恋人の名前を口に出していた。

「なぁに、黒子っち」

すぐ横から聞こえたのは、誰かが僕を呼ぶ声。分からないわけがない、その声。
「雑誌の俺に見とれちゃった?」
「わっ!?」

僕の隣には、同じように雑誌を読んでいる黄瀬くんがいた。

「ビックリさせないでください、黄瀬くん」
「俺さっき着いたんだ。隣に来ても黒子っち全然気付かないんだもん」
あははと軽く笑うと、何か含みのある視線を向ける。
「黒子っちが大事に持っているその雑誌、俺載ってるやつっスよね?」
「そうなんですか?時間つぶしに読んでいただけなので」
見られたくないものを隠すように雑誌を閉じて、元の場所へ戻した。
黄瀬くんの載っている雑誌は何回も見ているけれど、そんなこと本人に言ったこともなけば様子を見られたこともなかったので、今とても恥ずかしい。そして、今までモデルの仕事については興味の無いふりをしていたので余計に恥ずかしい。正直なところ、すぐここを離れて話題をそらしたかった。だから、雑誌を置いてすぐにでも本屋を離れようとした。

でも、離れられなかった。
黄瀬くんが、僕の手を掴んでいたから。

「な、黄瀬、くん?」
「俺のこと、見てたんでしょ?」
どことなく真剣な目。そうだよね?って無言で聞かれているような気さえする。
「俺に見惚れちゃった?」
「自惚れないでください。時間つぶしにたまたま見ていただけです」
ふいっと目をそらす。
えぇ、そうですよ。
普段のヘラヘラした笑顔と違って、かっこよかった。
いつもより、少しだけ大人びた笑顔に惹かれた。
毎回違う表情を見せる君から、目がそらせなかった。
大好きな君の表情を、もっとたくさん見たいと思っています。
好きだから、一緒にいれない間も君の事を見ていたかった。
「…たまたまです。たまたま黄瀬くんのページを…開いただけです」
「うん、たまたまでも俺のこと見ててくれたんスよね?俺すっごく嬉しい」
心からの嬉しそうな笑顔で、僕の手を握る。このキラキラした笑顔を見ると、思考回路がとろけて何も考えられなくなる。雑誌を眺めていたところを見られてしまって恥ずかしい気持ちより、黄瀬くんを愛おしいと思う気持ちが心にあふれ出てきた。
「本物の方が、イイ…ですけどね」
自分にしか分からないような小声で呟いた。そう、この笑顔に惹かれたんだ。クールな表情もいいけれども、やっぱり本物の黄瀬くんのこの笑顔が僕は一番好きだ。
「黄瀬くん、手」
「え?」
「掴むんじゃなくて繋いでください」
「了解っス☆」
キラキラした笑顔で、指を絡ませてくる。
かっこいい雑誌の君も愛おしいことに変わりは無いけれど、キラキラした笑顔と手から伝わるぬくもりには、やっぱり勝てないと思います。

今日は久しぶりのデート。君と手を繋ぎ、どこへ行こうか。

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