ファイブレイン

□天女が微笑む
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劇では、演劇部を筆頭にクラスメイトたちが役を演じていた。
ノノハ君は、かぐや姫の役でとっても似合っていた。
台詞を間違えずに感情を込めて役を演じていた。
でも、一番目を惹いたのは、カイト君だった。

カイト君は、天女の役だった。
かぐや姫を月に誘う人の一人で、普段結っている髪をほどいたカイト君は、女性みたいで綺麗だ。
なれない女性の口調で話すカイト君に、会場にいる人たちは温かい目で見守る。

でも、カイト君は、客席を見ることがあっても、特に表情を変えるのは彼を見たときだ。


(………ほら、またそんな顔をした)


彼を見たときのカイト君は、とても目が和み、色気を感じさせる表情だ。
対して、その視線を独占する彼も、普段は見せたことがないような顔をする。
愛しい者を見守る、そんな目だ。


(僕の負けだよ、ギャモン君)


カイト君が舞台袖に行くまで、ギャモン君はカイト君にずっと視線が注がれている。
そして、カイト君もだ。

隠しているとは思うけど、僕には分かっちゃったよ。

君たちは、互いを好きあって、信頼して、愛し合う恋仲なんだって………。


そして、カイト君が好きで、でも、この恋は実ることは決してないんだって。


「カイト君やノノハ君、上手く演じてたね」

「ノノハは完璧だが、カイトはまだまだだ」

「そうだね

ギャモン君、カイト君を泣かせたらダメだよ?」

「………は?何を言ってー」

「他のところも回りたいから、僕は失礼するよ

二人によろしく言っといて」


そうやって、僕は会場から離れる。
ギャモン君は、わけがわからないような顔を向けていたけど、僕はちゃんと説明せずに離れてしまった。

あのままいたら、僕はどうなっていただろう?
失恋は重くのしかかる。
だけど、カイト君が幸せなら、僕はそれで良い。

だから、二人をちゃんと応援してあげたい。



「天女………か、確かに、適役だよ」


天女のような彼に、心を奪われるのは当たり前。


頬を冷たい何かが伝い落ちた。
それが雨か、涙かなんて、僕にはわからなかった。



END
13/03/02
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