ノラガミ 〜 桜の咲く頃に 〜

□気持ち
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あたしは自分の気持ちに気付いてしまった。


好きになっても仕方がないのに。



この人はあたしを連れて行く死神なのに。


…バカみたい。




冷たい夜叉の手とは反対にあたしの手はいつも以上に熱い。



…手だけじゃない、きっと全身が嫌になるくらい熱い。



あたしは夜叉に手を引かれながら、人混みの中を歩いていた。







「あ…」


「どうした?」


「これ、かわいい…」


あたしは露店で売っていたストラップに目を惹かれた。


桜の形をした七宝焼に白い鈴が付いている。



チリン…



鈴の音が心地良く辺りに響く。



いいな…



あたしは思わず見とれてしまっていた。



でも…



「…欲しいのか?」



「ううん!キレイだなって思っただけっ。行こっ」


あたしは夜叉の腕を掴んでその場から離れた。




…だって、もうすぐあたし死んじゃうのに。


あんなの持ってたって意味ないもん。






今の自分の顏を死神の夜叉には見られたくなかった。



夜叉…あたしを連れて行く死神。




いつも、いつでも優しくて



夜叉が現れてから毎日が楽しくて仕方がなかった。




でもあたしはもうすぐ死ぬ。




この死神に連れて行かれる。





…死んだらどうなっちゃうんだろう。




もう夜叉に会えないのかな…





あたしは夜叉の腕を離して立ち止まった。



「どうした?」


「な、なんでもないよっ。次何処行こっか?って言っても、結構見て回ったから何処行こうか迷っちゃうね!」


あたしは夜叉に悟られないように必死にいつも通りに笑った。





「この後…」


「え?」


「この後、少し私に付き合ってくれるか?」


「いいけど…何処行くの?」



そう聞くあたしに




「ひみつ」





と一言言って、夜叉はあたしの手を取った。
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