ノラガミ 〜 桜の咲く頃に 〜

□白檀の香
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いつもの窓からの景色。


あの桜。


もう何回咲いたっけ?



あたしは病室の窓から見える桜の枝をじっと眺めていた。



こうしてベッドの上でいったい何回、あの桜が咲くのを見るのだろう。

…いや、あと何回だろう。



自分の死が近い事は分かっていた。


ちっちゃい頃から入退院の繰り返し。


そしてとうとう退院する事もなくなってしまった。


…いつか死ぬんだろうな。


そうずっと思っていたから「死ぬ事」は怖くなくなっていた。



その時のあたしには、夢も希望もない。

ただ、死を待つだけの日々だった。








「う…うん…」

その日はいつも以上に夢見が悪く、酷くうなされていた。



頭が痛い…


身体が重い…


あたし、このまま死ぬのかな。


寝ていてもなんとなくそんな事を思っていた。




その時




ふんわりと何処からか漂う香り。


とてもいい香りで心が落ち着く。



…あれ、ちょっと身体が楽になった?


なんだろう…いい匂い。






あたしはそっと目をあけた。



白い髪。


ひんやり冷たい手があたしの左頬に触れた。







あたしは一気に目が覚めてベッドから飛び起きた。



「だ、誰⁈何⁉変質者⁉」



あたしは窓の方まで逃げるようにベッドから離れた。



「おや、連れて行くのとは思えないくらい元気だね。…私は夜叉神、名は夜叉だ。お前を連れて行く死神だよ。」

そう言ってその人はあたしに優しく微笑んだ。




し、死神…?



あたしはじっとその人を見た。

白い着物を着た長い白髪の男の人。キレイな顏立ちで上品な雰囲気が漂っている。


神と言われれば、そんな感じもするけど…



「あなたが死神⁈…し、死神ってガイコツで黒い衣装着て、でっかい鍬とか持ってるもんじゃないの?」


あたしはかなり警戒しながらその人に尋ねた。

…不思議と恐怖はなかった。

死神と言われてもあまり疑いは持たなかった。

いや、例え目の前の人が犯罪者であってもあたしはどうせ死ぬんだから。

今更何も怖くはない。


「お前が想像している死神は人間が勝手に創り出した死神さ。…私は私がどういう見目かは自分自身分からないのだよ。お前にはどう見えるんだい?」



「どうって…」



いや、普通にイケメンですから‼

むしろ女性よりキレイ過ぎて、見てるコッチが恥ずかしくなる。

あたしはきっと赤面していたに違いない。

病室が真っ暗で助かった。

夜叉神の顏も月明かりで分かる位だ。でも月明かりからでも、彼の美しさは分かった。

ううん、この青白い明かりが夜叉神の美しさをさらに際立たせているのかもしれない。




「あ…あたしを連れてくの…?」


あたしは話を逸らした。


「いずれ、な。今日は挨拶に来たのだよ。…それにもう私が見えるようだし」


「え?」




「…またな」


そう言って夜叉神は姿を消した。





優しい香りだけを残して。
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