ノラガミ 〜 桜の咲く頃に 〜
□1人じゃない
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ここからは星が見えるんだな…。
あたしはそんな事を思いながら縁側で1人空を見上げていた。
アイツはただの闇だ。
本当の夜叉は…闇で出来ている。
あたしに触れた冷たい手も
優しい笑顔も
全て偽物。
…偽物、なのかな。
思い出してからは夜叉と別れたのが昨日の事のように思える。
「まだアイツの事想ってんのか?」
「夜ト…」
振り向くと背後には相変わらず機嫌悪そうな夜トがつっ立っていた。
「別に思ってなんかないよ。ほら、色んな事が重なっちゃって心がついて行かないって言うか…」
「そーかよ」
そういいながら、夜トはあたしの横に座った。
「…。」
「なんだよ?」
「なんか、こーやって夜トと2人並んで座ったのって初めてだなって思って…」
「お?…おぅ、そうだな」
夜トも何処となく気まずそうだ。
「…夜トはいつから気付いてたの?あたしに死神がついてた事」
「天神とこで泊まった時、お前の異変に気付いた。そん時は死神とまでは断定はしてなかったがな。でも…白音の意識が何かに引き摺られる感じがしたんだ。」
「そっか…」
だからあの時、夜トは変な起こし方したんだ。
「…今でも好きなのか?」
「えっ⁈な、何がっ…」
「今でもアイツのこと好きなんかなって…」
「…正直わかんないんだ。思い出したって言っても、なんか夢見てたみたいな感じでさ。」
「白音…言っとくが、今の死神はお前の事が好きだった死神じゃねぇぞ。お前と縁のあった死神は消えたんだからな。今の奴はまた新しく産まれた死神だ。…アイツはまたお前を狙って近づいてくる」
「うん…分かってる」
あたしは俯いて返事をした。
「なぁ、白音。死神がなんで疎まれる神か知ってるか?」
「え…?そりゃ連れて行くから…とか?」
「うん、まぁ単純に言えばそう。でもそんな単純でもねぇ」
夜トも俯き加減で遠くを見つめながら話した。
「白音はなんでアイツのエモノになったと思う?」
「身体が生れつき弱かったから…?」
「いや、違う。…お前に死んで欲しくない人間、多分お前の親が死神の姿を見たんだよ」
「えっ…親?」
「ああ。死神ってのは誰でも連れて行くワケじゃねぇ。自分の姿を見た人間のみ連れて行くんだ。…例えば母親と子供が死神の姿を見たとする。ヤツは自分の姿を見た人間を連れて行くには違いないんだが…この場合、子供だけを連れて行くんだよ。」
「なんでそんな事…」
「…死神が連れて行く人間は残された人間の、より悲しみの深い方を選んで連れて行くんだ」
あたしは言葉を失った。
「残酷な運命を好んで連れて行く。それが死神なんだ。」
夜トは立ち上がって一言言った。
「…でもヤツは白音を連れて行けなかった。その代わりにお前を独りにしたのも事実だがな。」
そう言い残して夜トは中に入って行った。