ノラガミ 〜 桜の咲く頃に 〜
□約束
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「ここは…?」
あたしは夜叉に連れられて街から少し離れた小高い丘に来ていた。
「こっちだ」
夜叉に手を引かれるがまま辿り着いた所は…桜の木。
「桜…?」
病室から見えていた桜よりずっと大きくて、立派な桜。
「この桜は上と繋がっている」
「上?」
「私の故郷だよ。上に行く橋となる桜だ」
「…。」
あたしは言葉が出なかった。
それって…あたしを今から連れて行こうとしてるって事?
「ここからだと街も見える」
あたしは夜叉の言う方を見た。
そこには綺麗な夜景が広がっていた。
「…綺麗」
あたしは感動して、言葉が出なかった。
夜景なんて初めて見た。
「この綺麗な灯りはそなたの育った街なのだな」
あたしの育った街。
こんなに綺麗だったんだ。
夜叉はいつの間にかいつもの夜叉の姿に戻っていた。
「あたし死んだらどうなるのかな。」
あたしは夜景を見ながら死神に問いかけた。
「何かの本で読んだんだけど、生のある者の最後は独りぼっちなんだって。…あたしも独りぼっちになるのかな。」
あたしの目からは涙がこぼれていた。
死ぬのが怖くて泣いてるんじゃない。
…怖くないって言ったらウソになるけど
それ以上に
もう夜叉に会えなくなるんじゃないかって
そう思ったら…死ぬよりそっちの方が怖くて、あたしは気持ちが抑える事が出来なかった。
きっとこんな感傷的になったのも
この夜景のせいだ。
「たとえ魂だけとなっても、今と変わらず私がそなたの側にいよう。」
「…本当?」
「ああ、約束だ。だからもう泣くな」
「…本当に?約束だよ?」
そういうと、夜叉はふっと笑った。
「では約束の印にこれをやろう。」
そういって夜叉はあたしの手を取って、手のひらに何かを置いた。
チリン…
綺麗な鈴の音が手のひらから聞こえる。
開いた手には七宝焼の桜のストラップがあった。
「これ…」
「そなたの願いは何でも叶えてやる。…約束も」
そして夜叉はこう言った。
「約束事が好きなのは、昔と変わらないな。サクラ…」