ノラガミ 〜 桜の咲く頃に 〜

□遠き日
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きっとお前は覚えていないだろう…。


私は一度だけ、幼いお前と言葉を交した事があるのだ。






(あの娘か…)

私は桜の木から病室の中の様子を伺っていた。


まだ連れて行くには先の話であったが、私はなんとなく気まぐれで見にきていた。


いずれ連れて行かねばならない娘。



まだ幼いというのにもう死期が決まっている。

人とはなんとも儚いものよ。





それにしても…


あの娘の可愛げのない事。

ニコリともせず、母親の話を聞いておる。



あの目。

まだ五歳位だというのに、子供の目ではない。

幼きとも死期が分かっておるのか?
連れて行くにもつまらんのう…



そんな事を溜息混じりに考えていると



「そこのおじさん。」


声が聞こえた。




「⁈」




「そこのおじさん。なんで木の上にいるの」


「おじ…っ!私はおじさんではない!!娘、私が見えるのか⁈」


「見えるから喋ってんじゃない。おじさん誰?変質者?」


「変…」


私は絶句した。

今思えば出会いは最悪だった。

私をおじさんだの、変質者だの呼びおって、なんとも失礼なガキだ。


「私はおじさんでも変質者でもない。私はお前をいずれ連れて行く死神だ!恐ろしかろう!」


「嘘よ‼」


「うっ…嘘ではない!」


「だって死神は黒い衣装着て、ガイコツで、おっきなクワ持ってるってジロちゃんが言ってたもん‼」


「じ…!誰だそんなガセを言うヤツは‼私が正真正銘の死神だ‼」



はっ…



私とした事が子供相手に何をムキに…



「ま、まぁよいわ…。いずれまたお前に会う事になる」


「え?あたしにまた会いに来てくれるの?」


「ああ。会いに来るよ。(だって連れて行くからな)」


「本当?本当に約束だよ?」


「…。なんだ死神に会いに来て欲しいのか?変わった娘だ。」


「だって会いに来てくれるお友達なんて、いないもん…」


そう言って幼きお前は俯いた。



「…わかった。また会いに行く。」


「本当⁈本当に約束だよ‼」


「あぁ…。娘、名はなんだ?」



「あたし、サクラ!トキワサクラ!」


そう言って満面の笑みで私に笑いかけた。




「おじさんの名前は?」






「私は…夜叉だ…」






そうして私はお前と指切りをしたのだ。




また会う約束を。
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