小さな物語
□今の僕と過去の君との未来の約束
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『今』?
しばらく、飲み込めずにいると、
「少し、
昔の話しないか?」
と、彼は言った。
私はその意図が掴めなかったが、それが彼らしいといばそれまでだ。
「昔の話と言えど、何を話したらいいのやら……」
「光秀。お前は何も言わなくていい」
「…どういうことです?」
「これは、昔の話…
つまり、『過去』のことだ お前は何も話さなくてもいい」
ますます、意味がわからなかった。
友と言えども、彼が私の過去を知っているはずがない
彼の口から出る言葉は、彼の容姿と声によって、さらに不気味に感じた。
「……元親殿…」
「―あの時、お前は」
────その、刹那
私が歩んできた記憶が──『過去』が断片となって、降り注いだ。
戦のこと。
計りしれず、奪った命のこと。
数々の奪われた大切なもののこと。
憧れたあの方のこと。
家族のこと。
戦友-とも-のこと。
そして───────
この胸に誓った、願いのこと。
私の『過去』の全てが、私の中に流れ込む。
もう、後には戻れない。
悔やみ立ち止まることは許されない。
そして、理解した。
彼は、この元親殿はこれを伝えに私の前に現れた。
彼は、私の『過去』を形作ったものだったのだ。
「思い出したか光秀」
「…ええ」
すると、彼は柔らかく微笑んだ。
「忘れるな」
「…?」
「答えはお前の中だ。
誰のものでもない」
「はい。」
すると、私は、
「では、私からも話があります」
「?」
何も話すことはなかった気がするが、口が勝手に動いていた。
何か、
何か話さなければいけない気がした。
「話しましょう。
『今』のことを…」
「……」
彼は、承知したように目を閉じた。
「今、あなたは─」
彼の、声が聞こえた気がした。
……照りつける夏の日差しに目をさますと、そこにはだれも居なかった。
「…いつの間に……」
いつから、眠っていたのかは分からない。
ただ、あの出来事は夢では無かったようだ。
手の中に四つ折りの小さな和紙が一枚。
「こんな所で何をしている光秀」
いつもの聞き慣れた声が背中に降りかかる。