小さな物語

□今の僕と過去の君との未来の約束
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今、あなたは―
―あの時、お前は









ある日の早朝、私は特にすることもなく、屋敷の裏を散歩していた。
昨日、軍備やら領地の統治やらで忙しかったので、気分転換にもなった。

「こんなに穏やかな時間は久しぶりですね」

戦いがものを言うこの乱世では、静かな時を過ごすことはほとんどない。
喉かな町や村も、一度、戦が起きれば、戦火に巻かれ、見る影もなくなってしまうのだ。
私は、この乱世を終わらせたい。
いや、終わらせよう。
いつも、そう胸に誓って戦に臨む。


一輪の朝顔が、花弁や葉全体で朝日を浴びるように、咲き誇っている。
私は、まだしっとりと水気を帯びた心地よい風を体に感じなから、歩いていた。
すると、少し先の水辺から聞き慣れた三味線の音色が聞こえた。

「…元親殿?」

次の戦に加勢するために、元親殿が四国からの友軍として少し前から来ていたのだ。
元親殿も早く起きていたのだろうと思い、音色の聞こえる方へ足を向けた。


遠くに見えるせいか、彼にしては、小さく見えた。


「元親殿!起きていたのです……か?」


何かがおかしい。
大分近付いて来ているはずなのに、
大きさが…………


「…元親…殿?」


その人物を目の前にして理解した。
子供だ。
けれども、その子供は、何処と無く元親殿の面影がある。


「……あなたは?」


確信が持てなかったので思わず聞いていた。
すると、その子供は、

「どうした光秀?俺の名を忘れたのか?」

と言った声はいかにも子供らしく、けれど、その中には落ち着きがある。


「…やはり、元親殿なのですね」


元親殿らしい彼は、軽くうなずいた。
その容姿は、男の子でありながら女の子のような肌としなやかさがあり、一見すれば見間違えるほどだ。
しかし、その瞳は、すべてを見透かしているかのような強い眼差しをしていた。

「しかし、どういうことかは分かりませんが、何故、そのような姿に?」

「…話をしにきた」

「?」

さらに疑問を投げ掛けるよりも先に、


「『今』のお前と話をしにきたんだ」
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