長編

□巻き戻しボタンはもう押せない
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サザンビークの学者から言われた通り、街を出て西にあるという森へと向かう。
途中でこじんまりとした家に入るも、中には人に慣れた3匹の魔物しかいなかった。


「…人がいねえじゃねえか。」

「まさかこの魔物が師匠、なんてことは…。」

「そ、それはないでげす。」

「地図を見るとこの先に泉があるわね…。とりあえず行ってみるわよ!」


ゼシカの言葉に頷いて一行が向かうと、ある1人の老人が佇んでいた。



「ほう、こんな所に人が来るとは…。やや、なんとお美しい…!」

『?』

「ワシも城で多くの姫君を目にしてきたが、あなたほど美しい姫君は見たことない。
周りの方々はこの美しい姫君を守り、旅をしておられる訳ですな。」


この馬がちゃんと姫に見えるのか。そう驚くエイトたちの言葉に、何故か老人も驚いた。
失礼と姫に触れるも馬だと確信する彼に、名無しさんがまさか…と訊ねる。


「…お爺さん、失礼ですが…目が見えないんですか?」

「うむ、ワシの目は何も映さん。心の目…すなわち心眼を通して周りを見ているのだ。
ワシの心眼が移すこの方の姿は、姫と呼ぶに相応しい姿なのに…。」


いったい何があったのか。老人にエイトたちが説明すると、彼は首を横に振った。


「………なるほど。お労しや、呪いのせいでこんな姿に…。
そうじゃ、この方法なら…!効くかどうかは分からぬが、泉の水を口にするといい。」


絶対とは言えないが呪いを解く効果がある。そう言われて早速姫が飲んでみた。
すると眩しい光が姫を包み込み、気が付くと彼女は2本足で立っている。



「……お、お父様…!?見て下さい、ミーティアは人間の姿に戻りましたのよ!!」

『………っ!?』

「どうしたの、お父様?…ま、まさかミーティアは、人間の姿に戻った夢でも見てるの…?」

「…おお、あまりに突然のことで言葉を失っておったわい…。
ちゃんと見えているぞ、姫よ。もっと近くでその愛しい姿を見せておくれ!」


しばしの間互いに見つめ合う親子に、エイトたちも笑みを浮かべる。



「どれ、ワシも水を飲んで元の姿に…。」

「……お、お父様…っ!!」

「ん?どうした、姫……姫!?」


再び光り出した姫の姿は、いつの間にか馬へと戻っていた。
結局ぬか喜びだったのかと肩を落とすトロデに、老人もどうしたものかと悩んでいる。


「姫君にかけられた呪いはよほど協力らしい。こうなれば方法はただ1つ…。
ドルマゲスとかいう道化師を倒すしかあるまい。希望はお主たちだけ、頑張るのだぞ。」

『はい…!』

「…風がそろそろ冷たくなってきた。ワシはそろそろ帰らせてもらうよ。」


先に帰っていく老人を見送った後で、ククールがそっとエイトの背を押す。


「…ほら、姫様はすっかり落ち込んだようだ。慰めてやれよ、エイト。」

「う、うん…。あの、姫……?」


心配そうに姫へ近付いていくエイトを見送り、残りのメンバーは泉の外に出る。
いい雰囲気に水を差してはいけないと、彼らなりの気遣いだった。



「…それにしてもあの爺さん、心眼が使えるなんてな……。」

「嬢ちゃんと同じ類でげすか?」

「さあ…?でもあのお爺さんは、修行でその能力を得たんじゃないかな。」

「…あ、エイトたちが戻ってきたわね。」


スッキリとは言えないものの、親子とエイトが泉から戻ってきた。
もう1度あの老人を訪ね鏡について聞かねば。小屋に戻るとスライムが話しかけてくる。



「ボクは天邪鬼なスライムっち!爺さんなら家にいないっちよ!」

「え、でもここって…お爺さんの家だよね?」

「嘘だと思ってるっちか!?失礼な奴っち!」

『……………。』


何故か拗ねたスライムはさておき、隣にあるドアを開ける。
音に気付いた老人は一行の声を聞き、泉で会った旅人だなと歓迎してくれた。


「あの、実はクラビウス王から魔法の鏡をもらったんです。
ただこの鏡には魔力がないと言われて…。何かいい方法はありませんか?」

「何!?ちょ、ちょっと出してみろ…!」


袋から取り出した鏡に触れた老人は、これの正式名称を教えてくれた。
太陽の鏡というらしいそれは、やはり魔力を失っているようで…。


「…強い光を放つ呪文を受けて、その輝きを増したと聞いたことがあるが…。
もう1度その鏡である呪文を受ければ、再び魔力を取り戻して輝くかもしれん。」

「呪文、ですか?」

「ふむ……。おお、そうじゃ!海竜が放つあの呪文があったか!
海竜の放つ呪文を受けた者は、あまりの眩さにしばらく目が見えなくなるとか。」


それ程に強力な呪文ならば、魔力も戻せるかもしれない。
その言葉に礼を言って、一行は船へと戻っていった。
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