長編

□おとぎ話は月明かりの下で
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ククールと名無しさんを戦いに慣れさせるため、一行は歩きながら東へと向かっていた。
マルチェロからもらった世界地図を見つつ、次の国……アスカンタ王国を目指す。



「美しい若者が2人も加わると、やはり華やかになって良いのう!」

「気色悪いこと言うなよ…。」

「おっさんがいなかったら、アッシらの旅ももっと華やかでがす。」

「何じゃと!?」


トロデとヤンガスのやり取りを、残りの4人は笑いながら聞いている。
ミーティアが顔をそっと父に近付けて、喧嘩を止めるよう促していた。


「…あ、みんな見えてきたよ!アスカンタ王国…が……。」



地図とにらめっこしていたエイトが、思わず言葉に詰まってしまった。
それもそのはず。城には黒い垂れ幕がかかり、国全体が活気がないのだ。


「…何があったんでしょうか?」

「ちっ!また辛気くせえのがきたな…。」

「サーベルト兄さんが死んだ時も、こんな感じだったわ…。」


とりあえず外でトロデとミーティアを待たせ、一行は国内へと入っていった。

























街の人々に話を聞いたところ、どうやら2年前に王妃が亡くなったらしい。
それを悲しんだパヴァン王の命令で、今までずっと国全体が喪に服していると言う。


試しに王の間へと向かったものの、大臣がポツンと1人いるだけだった。



「…ああ、旅の者たち。見ての通りこの国は、王様の命令で喪に服しておる。
王様は今ご自分の部屋で嘆いておられる。小間使いのキラが様子見に行っただろう。」


その言葉と同時に階段から、キラが悲しそうに下りてきた。
また食事を残していたと大臣に報告し、彼女は5人の方を向く。


「夜になれば王様はここで、王妃様の死を嘆いております。
嘘だと思うならどうぞ、また夜にいらして下さい。」

「…ご苦労だったな、キラ。下がって良いぞ。」

「はい…。では、失礼します。」



顔を見合わせたエイトたち。とりあえず夜まで思い思いに過ごすことにした。
名無しさんは皆と別れて教会に行くと、そっと跪いて祈りを捧げる。


「……………。」


首から下げた金のロザリオが、光に反射して輝いている。
その姿はまさしく聖女そのもの。名無しさんの後ろで誰かが息を呑んだ。



「……あら、あなたは…。」

「あ、も、申し訳ありません!!私ったらお祈りの邪魔を…!」

「いいえ、大丈夫ですよ。キラさん…ですよね?
私は名無しさんといいます。訳あって今は、さっきの仲間たちと旅を。」

「名無しさんさん…。改めまして、キラです。先程は申し訳ありませんでした。」


キラの言葉にとんでもないと首を振る名無しさん。
すると何処から来たのかと訊ねられ、名無しさんはマイエラ修道院と答えた。



「やはり!お祈りする姿があまりに神々しかったので、もしやと思い…。
お願いします。どうかお時間がおありでしたら、神の教えを聞かせて下さい。」



王を救える手立てをと、キラは必死にお願いしてくる。
断る理由が見つからない。私で良ければと、名無しさんは説教を聞かせた。
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