長編
□悲しみと事件の始まり
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マイエラ修道院へと到着した名無しさんとククール。
部屋に戻ろうとした時、マルチェロの命令を名無しさんに伝えた団員が呼び止めた。
「ククール、名無しさん。マルチェロ団長がお呼びだ、地下室に来いと。」
「おい、名無しさんは何も関係ねえだろ…!」
「お前がふらふらと出歩かなければ、こんなことにはならないと思うがな。」
黙り込んでしまったククールを一瞥し、彼はスタスタと自分の部屋に戻っていった。
「……ちっ!何も名無しさん、お前まで呼び出すことはねえだろ…!」
「………いいえ、私は大丈夫です。行きましょう?」
「……くそっ!!」
「……またドニの酒場で騒ぎを起こしたようだな、この恥さらしめ。名無しさん、貴様までどういうつもりだ。」
薄暗く湿っている拷問室で、冷たく言い放つマルチェロの声がしている。
彼の言葉に、名無しさんは顔を俯かせた。
「も…申し訳ありません、団長…。」
「お言葉ですが、団長殿。今回の騒ぎの原因は俺だ。こいつは全く関係がない…。」
「黙れっ!どこまで我がマイエラ修道院の名を落とせば気が済む?…まったく、お前達は疫病神だ。」
ククールの言葉を一喝して封じ込め、マルチェロは言葉を続ける。
「そう、疫病神だよ。お前達さえ生まれてこなければ、誰も不幸になぞならなかった。」
「「………。」」
「まったく…半分でもこの私に、お前達と同じ血が流れているかと思うと、ゾッとする。」
彼はそう言って振り向くと、つかつかと名無しさんに歩み寄り、彼女の細い腕をギリ、と掴んだ。
「いた…っ!」
「ふん。大方、乱闘にでも巻き込まれたのだろう。役立たずの兄のせいでな。」
「ち、違います…!これは……いっ!!」
「おまけにその眼…千里眼だったな。気持ち悪い眼だ…!」
顔をしかめながらも必死に抗議する名無しさんの腕を
マルチェロは、黙れとでも言う風に力を込めて握った。
「おい、やめろ!何度も言ってるだろ、こいつは何も悪くねえ!!」
「誰に向かってそんな口をきいている、ククール!!」
「お、お兄様達…!」
「兄と呼ぶな!汚らわしいこと、この上ない!」
バチバチと火花を散らせているマルチェロとククールに、名無しさんは慌ててやめるように促す。
しばらくして、マルチェロがイライラした様子で冷たく言った。
「聖堂騎士団員ククールと名無しさん。団長の名において、お前達に当分の間、謹慎を言い渡す。
いかなる理由があろうとも、この修道院から出ることは許さん。いいか?一歩たりともだ。」
「「………。」」
「それさえ守れぬようなら、いくら院長が庇おうとここから追放だ。……分かったな?」
その時、拷問室のある部屋から出ていった3人の人影に、彼らは何も気付かないのだった。