長編

□私の暗いどろどろした瞳を見て
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「…この美しさ……どうやら本物みたいだね。さすがヤンガスってところか。」



ビーナスの涙をゲルダに差し出すと、彼女は品定めをするように眺めている。
本物だと納得すると彼女は、満足げな表情を浮かべていた。


「さあ、約束通り馬と馬車を返してもらうぜ。」

「……あたしがした約束は確か、宝を持ってきたら馬を返すのを考える…だったね。」

『!?』

「じゃあ今考えた。やっぱりあの馬は返せないね、この石ころはあんたたちに返すよ。」


何ということだ。これでは努力が水の泡になってしまう。
必死に頼み込むヤンガスだが、どうしてもゲルダは話を聞いてくれない。



「…今回のことは俺1人の問題じゃねえんだ。仲間のためにも引く訳にはいかねえ。
この通りだ!俺はどうなってもいいから……!頼むからあの馬を返してくれ!!」


床に両手と両膝を付けて土下座してまで、姫を返せと頼むヤンガス。
それに驚いたのはエイトたちだけでなく、ゲルダも目を丸くしていた。



「な…っ!?……分かったから、もう止めな。」

「ゲルダ…?」

「大の男が簡単に頭なんか、下げるもんじゃないよ!
あんたを困らせようと思ってたけど、バカバカしくなってきた。」

「それじゃあ…!」

「あの馬のことは好きにすればいいさ。その代りビーナスの涙はもらっておくよ。」



そう言うと背を向けて手を払い、出ていくように告げる彼女。
ありがとうと礼を言うと、ヤンガスたちはドアを開けて外に出た。


そこには………。



「ミーティア姫!?」

「…実はゲルダ様から前もって、馬を返す準備をしとけって言われてたのさ。
何だかんだ言ってゲルダ様、あんたらが宝を持ってくるって信じてたみたいだな。」

「そ、そっか…。名無しさん……。」

「うん?」


ニコニコと笑顔の名無しさんに顔を向け、エイトが恐る恐る訊ねる。


「君、もしかして…こうなるの分かってた?」

「ふふっ!さて、どうでしょう?」

「やけに冷静だと思ったんだよ…!!」


トロデが頬ずりしながら、娘との再会を喜んでいる。


「おっさん、いつの間に…!?」

「おお、姫!怖い思いをさせてすまんかった。もうお前を1人にはせんぞ。」



家を出て一行は再び地図を見ながら、次は何処に行こうか話し合っていた。
そういえば…とヤンガスが思い出したように、情報屋が帰ってきた頃合だと言う。


「とりあえずパルミドに戻るでがす!ドルマゲスの情報を手に入れなきゃあ!」

「「え……!?」」


嫌そうな声を出した人物の1人はトロデ。あんなことがあったのだ、戻りたくないらしい。
ではもう1人は誰なのか。……引きつった表情の名無しさんが、後ろの方に隠れていた。


「…ふうむ、ワシもあの街付近では護衛がいた方が安心じゃな。頼めるか、名無しさん?」

「分かりました…!」


嬉しい提案を申し出てくれたトロデに、仲間たちは苦笑いを浮かべている。
ホッと安心した顔の名無しさんは両手を広げ、目を閉じて精神を集中させた。


「ルーラ!」


目の前にはパルミド。中に入っていくエイトたちを、3人は行ってらっしゃいと見送った。
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