長編

□私の暗いどろどろした瞳を見て
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「買い取ったんだが…その……もう売っちまったんだよな。」



そう闇商人に言われてエイトたちが向かうのは、ゲルダという女盗賊の元。
ようやくパルミドを出て新鮮な空気に触れ、名無しさんも少しずつ元気になっていった。


「…あ、ここでがすよ。」


奥まった場所にあるゲルダの家に到着し、門の前にいる男に通してもらう。
中では揺り椅子に座ったゲルダが、こちらをジッと見つめていた。



「…で、話ってのは何だい?」


代表で話をつけようと、ヤンガスが姫を返すよう頼み込む。


「お前さんが闇商人の店で買った馬のことさ。あの馬を譲ってくれねえかい?
あれは俺の旅の仲間の持ち物だったのが、盗まれて店に並んでたんだよ。」

「あの馬は売らないよ。毛並みといい、従順そうな性格といい…実にいい馬じゃないか。
いくら金を積まれても譲れない。……だけど、本当に返してほしいなら条件がある。」



椅子から立ち上がってヤンガスを見下ろしながら、ゲルダは北にある洞窟を話題に出す。
通称、剣士像の洞窟と呼ばれる場所。そこにある宝箱からビーナスの涙を取ってこい。


それが彼女の条件だった。

























そんな訳で洞窟へとやってきたエイトたち。以前ヤンガスが挑戦したことがあるらしい。
だが一筋縄ではいかない仕掛けの数々に、彼は諦めざるを得なかったのだとか。



「……大丈夫よ。」


笑顔を見せる名無しさんに注目する一同。


「私には千里眼があるもの。さっきは具合が悪くて姫様を守れなかったけど…。」

「……前から思ってたんでがすが、その千里眼って何でがすか?」

「…こいつはな、生まれつき未来を見通せる眼を持ってるんだよ。
まあ他にも、いろいろ見えたりするらしいけどな。例えば…幽霊とかさ。」


そう教えてやる兄の隣で、名無しさんは笑顔を浮かべている。
しかしどこか儚いその表情は、恐らくもう1人の兄を思い出しているのだろう。



「…まあ、たとえ千里眼がなくても…。」

「みんなで協力すれば絶対に、ビーナスの涙を取ってこれるわよ!」

「そうでがすね!仲間全員で頑張りゃあ、怖いもんなんてないでがす!」


威勢よく洞窟のドアを開けて兄妹を振り返った仲間たち。
早く行こうと差し出された手に、思わず涙が出そうになる。


「…ったく、お前ら揃ってせっかちだな。ほら……行くぞ、名無しさん!」

「はい…!!」



いざ出陣、と一行は洞窟への第1歩を踏み出した。
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