企画

□スウィート・バスルーム
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「今戻った」

ガチャリ、と扉が開かれる小さな音と共に、恋人の声が聞こえてきた。
キッチンにて夕食を温めていた天藍は慌てて火を止め、すぐに廊下へと飛び出していく。玄関に大好きな曹丕の姿を見つけると、ぱあっと笑顔の花が咲いた。

「おかえりなさい、子桓さん!」
「ああ」

近くまで駆け寄っていくと、優しく頭を撫でられる。嬉しくて表情を緩めたまま素直にそれを受けつつ相手を見上げると、曹丕の表情も和らいでいるのが見えた。
可愛い恋人に自らが買い与えたエプロンをつけたまま嬉しそうに出迎えられては、流石の曹丕でも頬が緩んでしまうようだ。

「ご飯にしますか?お風呂にしますか?」

鞄とジャケットを受け取りつつ何の気なしにそう尋ねる天藍に、曹丕は軽く瞬き、眉間にシワを寄せた。そしてそのまま、無言で天藍を見つめて来る。

「………」
「あ……あの?」

何故見つめられるのかが分からず不安を感じた天藍の体が、僅かに強張る。
もしかして何か気に障る事でも、と表情を陰らせた天藍を変わらぬ瞳で見つめつつ、曹丕はゆっくりと口を開いた。

「伯佳よ…何故、『俺』が無いのだ」
「…はい?」
「夕餉、湯浴み…と来るならば、最後は、『それとも俺』と言うのが妻としての常識ではないのか?」
「そ、そんな変な常識知りません…!」

どこか呆れたような表情で告げる曹丕に、天藍は仄かに目元を赤らめながら反論した。ご飯かお風呂かそれとも俺か、だなんて恥ずかしい事を、さらりと言える筈が無い。

「ほう……では、これは渡せぬな」
「これ、って?」
「これだ」

曹丕は言葉と共に左手を上げ、有名なタルト専門店の名前が描かれた箱を軽く揺らし、見せ付けて来た。
途端に天藍の目が見開かれ、きらきらとした輝きを帯びていく。

「そ、それは…!あの有名な…」
「お前の食べたがっていたものを買って来たのだが…言わぬのなら、食べさせる訳にはいかぬな」
「うう……」

残念そうな言葉とは裏腹にニヤニヤとした意地の悪い笑みを浮かべている曹丕を弱々しく睨みつけながら、天藍はぐるぐると考えを巡らせた。
ご飯かお風呂かそれとも俺か、はかなり恥ずかしいが、タルトも食べたい。たった一言を付け足せば終わるのだから、ここは美味しいタルトのために、羞恥を我慢すべきか…。

少しの間小さく唸っていた天藍はやがて意を決し、改めて曹丕の顔を見やった。相変わらず意地の悪い表情を浮かべている彼を見つめたまま、頷いてみせる。

「…わ、わかりました、やります!子桓さん、帰ってくるとこからやり直してくださいっ」
「ふ……良かろう」








「おかえりなさい、子桓さん…」
「ああ」

改めて扉を開けて玄関へと入って来た曹丕を見つめつつ、天藍はゆっくりと唇を動かした。恥ずかしいやら曹丕の思い通りになって悔しいやらだが、ここまで来たからには後には引けない。

「ご、ご飯にしますか?お風呂にしますか…?」

そこまで言ったところで、頬がじわりと熱を持つのを感じた。愉快そうな表情を浮かべている曹丕を恨めしげに見上げてから、喉から震える声を絞り出す。

「そ…それとも、俺にしますか…?」
「ふん……上出来だ」

若干小さい声ではあったが曹丕の耳には届いたらしく、彼は満足そうに目を細め、褒美だと言わんばかりにタルトの入った箱を天藍に差し出した。すぐさま礼を述べてそれを受け取り、嬉しそうに高く掲げる可愛らしい姿を眺めてから、曹丕は靴を脱ぎ、恋人へとそっと両手を伸ばした。

「では、浴室で、お前を、食すとしよう」
「…は?うわぁっ!?」

意味を聞き返す前に軽々と姫抱きにされ、天藍は目を白黒とさせる。曹丕はそのままキッチンへと歩みを進め、タルトの入った箱をきちんと冷蔵庫に入れてから、天藍を連れて浴室へと向かっていった。













「っん……ふ、ぅ…」
「普段のように、声を出したらどうだ」

広い浴室の広い浴槽の中。曹丕は天藍を自らの脚に乗せ、後ろから片手を伸ばして胸の突起を弄くっていた。もう片手は天藍が逃げられないよう、彼の細い腰にしっかりと回っている。

 
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