短編

□嫌いのち、だいすき!
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今日は、四月一日。今日だけは、嘘をついても許される日。
と言う事で、嘘を付いてみることにした。




「お師匠様?」

執務をこなすお師匠様……司馬懿様の隣に座り、声をかけてみる。お師匠様はちらっとこっちを見てから、すぐに書簡に向き直った。

「私は忙しいのだ。後にしろ」

それだけ告げて筆を取るお師匠様。
俺はすぅっと息を吸い込み、ありきたりな嘘をついた。

「お師匠様、嫌いです」
「………は?」
「お師匠様、意地悪だし、すぐ俺のこと馬鹿め馬鹿めって言うし…だから……嫌いです」

それだけ言うと、ふいと顔を背けてみる。
どんな反応するかな、いつもみたいに鼻で笑われるかな、と若干うきうきしながらお師匠様の方を見やると……

「……え?」
「……ふ、フハハハハハ!そ、それはこ、こちらのせ、台詞だわ!貴様に嫌われて、逆にせ、清々すると言うものよ…!」
「お師匠様…」
「み、見るな!馬鹿めが!!」

あのお師匠様が、涙目になっている。
きつい目元をうるうるさせて、俺の眼差しから逃げようと顔を背けて。

お師匠様…かっ、かわいい…!

俺は耐えきれなくなって、思わず両手を伸ばして正面からぎゅうっとお師匠様にしがみついた。

「うそ…お師匠様っ、嘘です!今日は嘘ついても許される日だって聞いたから…、…ごめんなさい」

そこまで言うと顔を上げて、そっとお師匠様の顔を確認しようとする。
でもその前にお師匠様が無言のまま両手を伸ばしてきて、俺を抱き締め返した。その次の瞬間。

「痛ッ!」

お師匠様が愛用している羽扇の柄で、カーンッと音がするくらいに思いきり頭を叩かれた。

「な、何するんですか!」
「仕置きに決まっておるだろう!」

今度は羽の部分で、ぽすっと頭を叩かれる。
そして、優しく抱き締められた。

「…私をここまで動揺させるのは貴様くらいのものだわ……馬鹿めが」

耳元で小さく囁かれた言葉に、俺は叱られているのも忘れ、知らないうちに笑みを浮かべていた。



嫌いのち、だいすき!



(嘘ついて、ごめんなさい…)
(…私も貴様が大嫌いだ、心っ底嫌いだ)
(もう、拗ねないで下さいよ)
(すすす拗ねてなど居らぬわ馬鹿めがぁぁああ!)

 

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