愛しき彼女のハミング

□悩めるコックと救いの神
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「なぁサンジ。お前、キオと喧嘩でもしたのか?」


朝一からルフィにそんな質問をされた。

まずい。

鈍感の代表格ともいえるルフィでさえもそう感じるのだ。

やはり俺は、彼女に避けられている。










悩めるコックと救いの神










「お前それ今さらか?今さら聞くのか!?」

クルーのほとんどが朝食を済ませた頃、まだラウンジに残っていたウソップを捕まえて質問すると、そんな答えが返ってきた。

質問の内容は『俺と彼女』について。


「なんだよ。オレぁてっきりお前らはもう相思相愛なのかと思ってたぜ。」

「んなわけないだろ!」

「だってアイツ、毎日のようにお前のとこ通い詰めてたじゃねぇか。少なくとも、キオはお前にぞっこんだろうってルフィとチョッパー、それにゾロ以外はみんなそう思ってるぜ?」

「!!!」


ウソップの言葉に俺は絶句した。

キオちゃんが俺に惚れてる?

そんなまさか。


「まぁでも最近はあからさまにお前を避けてるけどな。ラウンジに寄りつかなくなったっていうのか?」


確かにいつもラウンジに来てくれていた。

話もよくしたし、まぁ少なくとも仲は良い…ハズだ。


「今朝だって朝食パパパって食ってすぐ行っちまったしな。」


彼女の気を惹きたくて、彼女の好きなものばかり提供していたし、彼女が好きそうな話題を持ち出したりした。

でも肝心の彼女はニコニコと笑うだけで、ちっとも相手にされてない感じだった。


「俺の見立てではキオのやつ、すっげー照れてる気がすんだよなぁ。お前が近づくと顔真っ赤にして俯いちまってるし…って、あー…おい、サンジ?」


こないだもそうだ。

朝早くにラウンジに現れて、俺の鼓動は早鐘のようにカンカン鳴りっぱなしだったってのに、彼女はいつもとちっとも変わらない。

カマかけてみたけど結局笑顔でごまかされてそれきりだ。

もう一週間もまともに話しちゃいねぇ。


「おーい、サンジくーん。」


だがまて。

よく考えてみると、彼女が俺を避けだしたのはあの時からか?

もしかしてあんなこと言っちゃったからか!?

俺の焦りが墓穴を掘ったのか!?


「おいサンジ!!」

「!!!」


焦りと後悔で頭を抱えていると、ウソップの大声が頭に響いた。

振り返ると、鼻が当たりそうになるくらいの近さにクソ真面目な顔をしたウソップがいた。


「とにかくだ。お前、はっきり言った方がいいぞ。」

「はっきり?」

「『好き』だって、その様子を見れば、言ってねぇんだろ?」

「あ…あぁ。」


確かにウソップの言うとおりだ。

思わせぶりなことは言っておきながら、肝心なことは何一つ言っていない。

ナミさんやロビンちゃんにいつもの愛の言葉を囁けても、

俺は彼女にはうわべだけの口説き文句は出なかった。

それは、それだけ彼女のことが…。


『キオちゃんの好きなヤローはどいつか…とか?』


あれは俺の本心だ。

彼女の心が知りたい。

どんな男がタイプなのか。

誰か惚れてるやつがいるんじゃないかとか。

俺のこと、どう思ってるのかとか…。

心の内を見せない彼女に、俺は焦っていたんだ。


「ウソップ、俺…」

「とりあえずお前の気持ち伝えてさ、アイツの気持ちも受け止めてやれよ。」


ウソップは俺の方に手を置いて、ウインクをした。

オレ、いいこと言っただろ!とでも言いたげにガッツポーズまでするこの優しい仲間に、俺はさすがはゴッドウソップだ、とほんの少しだけ感謝するのだった。

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