企画物
□trick or …
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「トリック オア トリート!」
周りの空気が変わったと思った次の瞬間、両手を広げてそう叫びながら彼女は降りてきた。
いつも突然現れては甘い香を残して消えていく騒がしい来訪者。
さて、今回は何の用やら。
「トリック?」
「トリック オア トリート!青雉さんもしかして知らないの!?」
「あー……こないだ寄った街でそんなこと騒いでたかねぇ。」
嘘でしょ!?と驚愕の声を挙げる彼女。
笑顔から驚いた顔まで、彼女はよくコロコロと表情を変える。
やたらオーバーなリアクションも相まって見ていてちっとも飽きない。
むしろなかなか姿を表さない分、こうした刺激は俺の心をざわつかせているわけなんだが……。
そんなこと知るよしもない彼女は、膨れっ面でいつもの特等席に座り込み文句を言い始めた。
「せっかくおやつもらえると思ったのに〜。」
「あらら。嬢ちゃんの目的はお菓子かい。」
「当たり前でしょ?旅のお供に欠かせないんだから。」
「あー……旅の供なら海列車名物の干物クラゲが「いらん。」……さいですか。」
俺の提案を一蹴した彼女は口を尖らせてしまった。
こうなると何を言っても聞く耳は持たないだろう。
俺はだんまりを決め込んでそのまま舟を漕ぎだした。