平助の母親
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☆★エピローグ★☆
忘年会もなんやかんやで大盛り上がり(?)のうちにお開きの時間になり、「また来年!」「良いお年を!」なんて言いながらマイクロバスに乗って去って行く誠自動車スタッフを大通りで見送るわたしたち。
「はぁ…。」
つい出てしまったため息にとしくんが気が付いてふっと笑ってわたしの頭に手を乗せる。
「なんだ、疲れたか?」
優しげな表情にホッとするけど…、
「そりゃぁ…、みんながお祝いして盛り上がってくれるのは嬉しかったけど…、」
チラッととしくんの顔を見上げれば、わたしが何を言いたいのかわかったらしく、気遣ってくれてた優しげな表情を一瞬キョトンとさせると、「悪かったな」ってちょっと先を見てブスッとした顔をする。
だけどその表情が可愛くてつい笑ってしまう。
「……、なんだよ…」
「ふふ!なんでも!さぁ、帰ったらゆっくりだね!」
ついとしくんの手を取って歩き出すと、後ろからクスクス笑い声が聞こえて振り返る。
「ちょっとかぁちゃん、オレらいんの忘れてない?」
頭の後ろで手を組んで歩く平助の呆れ顔と、握った右手を口元にあててクスクス笑う千鶴ちゃん。
「いやはや!実に羨ましいっ!トシー!羨ましいぞっ!」
大きな声で羨ましがりながら駆け寄ってくる近藤さまがとしくんの隣に来て歩く。
慌ててパッととしくんの手を離そうとしたら、ギュッと力を入れられて掴まれる。
「っ!?」
「ふっ!いいだろ?近藤さんもツネさんと繋げばいぃじゃねえか」
照れもせずに自慢げに言うとしくんに近藤さま以外、その場にいる全員がビックリ。
「ぃやっ!俺のとこはもう新婚気分なんて遥か昔でそんな手なんて繋ぐわけが…」
「なんでだよ。たまには繋いでやってみろ。何かが変わるかも知れねぇだろ」
ニヤッと笑みを浮かべるとしくんの顔を見て「そ…、そうか…?」と不安げな表情の近藤さま。
「もしかしたら来年からは近藤さんちも雰囲気変わるかもな」
「そっ!そうかぁ!?」
としくんの一言でぱぁあっと明るく笑顔を輝かせるから、可笑しくて笑ってしまう。
「ところでトシは年末年始は、苗字さんと過ごすのか?」
居酒屋さとうの扉を開けて聞く近藤さまに「あぁ、そうだな…」と答えながら扉をくぐるとしくんに続いてわたしたちも店内に入ると誠自動車のスタッフが帰った後片付けを店内に残っていたおのぶさん夫婦と沖田くん、はじめくんコンビも手伝っていた。
「あ、手伝います!」
千鶴ちゃんと一緒におのぶさんに声をかけると、「ありがとー!食器下げて机を拭いてくれたら充分だからー!」とたくさんの食器を両手で運んで暖簾の奥へ行く。
結局、先に帰った誠自動車のスタッフ以外全員で協力して片付けたから、あっという間に元通りのピッカピカ。
「ありがとね〜!もう大掃除しなくてもいいくらいピカピカだわ〜!」
カウンターに座る私たちに湯のみを差し出して嬉しそうに笑うおのぶさん。
「そぉいや、もう年末ですもんねぇ〜。あっという間でしたねぇ」
しみじみと言う沖田くんの言葉にウンウン頷いて「そうだな…、あっという間だったな」と腕を組む近藤さま。
「あんなに結婚に対して嫌悪感を抱いてたトシが、苗字さんに出会ってスピード結婚だもんな。世の中何が起こるかわからんもんだよ、まったく」
「べ…、別にいいだろ?俺はこうと決めたらはぇえんだよ。」
全員に見られて恥ずかしいのか湯のみを持ってズッとお茶をすする。
「結婚式も済ませて…、いつから一緒に住むの?」
おのぶさんもカウンターに肘をついてニコニコしながらとしくんに訊ねる。
「まぁ…、年末年始はこいつの家で過ごすが、学校が始まればまた今まで通りだな。とりあえず平助たちが無事卒業したら…、ってとこだろう」
そう。
籍を入れて、結婚式も挙げたけど、結局のところ同じ家に住むのはやっぱり平助が卒業してからにしようってことで話し合っていた。
これから受験生になる平助にとっても環境を変えずに勉強に励んでもらいたいし、それに表向きにもまだ公にしないようにって考えで。
だからとりあえずは今までと変わらず、別々の家でそれぞれの生活をする予定。
「せっかくの新婚さんも一緒に暮らせないんじゃ雰囲気出ないわねぇ」
眉を下げて片手を頬に付けて残念そうにいうおのぶさんに
「新婚さんっていっても…、ねぇ…」
とニヤついた顔をとしくんに向ける沖田くん。
「……なんだ…」
「平助くんみたいな大きな子もいるわけだし、そんな節操なくイチャつくなんてことしませんよね普通」
ニヤつく沖田くんの言葉についさっきの自分の行動に赤面してしまう。
うぅぅ、やっぱり恥ずかしいよね。見てる平助だって困っちゃうよね。
そんなわたしの様子に気が付いた近藤さまは沖田くんに向かって「そんなことはないぞ総司!」と大きな声で言う。
「新婚だろうがなかろうが、お互い大切に思っていれば手だって繋ぐさ!俺だってツネと繋ぐって決めたからな!」
はっはっは〜!と大きな口を開けて笑う近藤さまに口をポカ〜んと開けて見上げる沖田くん。
はじめくんも珍しくポカ〜んとしてる。
「まぁ…、今までとかわらねぇっつったが、こいつの作る朝飯の味噌汁は最高だからな。週末はこいつんちで過ごすかもな」
「えっ!?マジかよ!?」
「なんだ?文句でもあるのか?」
としくんの思いつきの発言にあからさまに驚く平助をジロッと睨むとしくん。
「いや、文句っつーか…、だって朝飯食うのはいいけど、かぁちゃんの味噌汁なんて普通の豆腐とわかめじゃん。わざわざ食いにくるようなもんでもねぇじゃん」
ひどい平助!
でも何故かそんな平助の言葉に反応する近藤さまとはじめくん。
「苗字さんの味噌汁!!?トシっ!ズルいぞっ!」
「豆腐…!?名前さんの…、豆腐の味噌汁…だと…!?」
「それにかぁちゃん仕事行っちゃったらどーすんのさ。オレやだよ。土方先生と二人っきりなんて〜」
背もたれに凭れて前後に体を揺らしながら文句を言う平助に千鶴ちゃんがフォローを入れる。
「え?でも私がおじゃましてる間は二人っきりじゃないよ?」
「や、でもさぁ〜、やっぱ今まで千鶴と二人でのんびりできてたのに土方先生が家ん中にいるとか思ったらさー…」
「俺がいたら不都合なことでもしてんのかよお前ら」
「え"っ…」
としくんの低い呟きに固まる平助。
「都合の悪い事って…」
繰り返すわたしの呟きに沖田くんの陽気な声が被さる。
「あっはは!まったく…、ほんとに今の子達ってマセてるよねぇ」
「なっ!?マセてるって!なんもしてねぇよ!オレたちなんもしてねぇよっ!」
大慌ての平助と頬を赤らめる千鶴ちゃん。
えっ!?どういう反応?コレ!?
ちょっと二人ともどういうこと!?って口を開こうとするわたしのタイミングに被せて「まぁいい」ととしくんがため息に載せてはき出す。
えっ!?まぁいいって…!?
「俺だって仕事持ち込めるなら別だが、やることもねぇのに名前のいない家にはじっとしてられねぇしな。」
その言葉にホッとする平助だけど…、
なに?どういう意味でホッとしたの???
そう聞こうと身を乗り出して口を開こうとするけど…、
「その代わり俺もたまには名前連れて俺んちに帰る事もあるから、そん時ゃお前ら二人でしっかりやっとけよ」
「っ!!!???」
ニヤッと笑って言うとしくんにわたしと平助二人揃って同じ顔をする。
ちょ、ちょっと!?それってどういうこと!?
なんかもー、いろいろタイミング逃して発言権全くないってコレどーいう事なの〜!!?
その後も沖田くんが
「わー、やらし〜!年甲斐もなくそういう事言っちゃうなんて土方さんやらし〜!」
と囃し立て、
「うるせぇ!男なんてのはな、惚れた女がそばにいりゃ、いくつになっても現役なんだよ!」
と平然と言ってのけるシラフのとしくん。
「わぁああもぉー!!そういう事こどもの前で言わないのー!!」
目を丸くして真っ赤な顔の平助と千鶴ちゃん、
それから二人と同じように赤面して俯くはじめくんの前で、立ち上がって叫ぶわたし…。
こうして居酒屋さとうでの忘年会の夜は更けていくのでした。